Galactic Inquiry: スター・ロン インタビュー


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Galactic Inquiryはスペースコンバットシム"Star Citizen"を取り扱うネット配信のトークショー番組です。
Star Citizenは元Origin Systemsの開発スタッフが手がけているという縁もあり、武器アイテムをクロスオーバーで登場させるなどShoroud of the Avatarとも関連するゲームタイトルとなっています。(SotAに登場するアイテム"Vanduulの槍"の"Vanduul"はStar Citizenに登場する種族)

また、SotAのクラウドファンディングにあたり、Star Citizenプロジェクトのファウンダーからアドバイスを受けるなど、プロジェクトレベルでも関連があることから今回のスター・ロンへのインタビューが実現したようです。

スター・ロン自身の経歴からUO黎明期のエピソード、さらにはSotAのコアシステムにいたるまで、ディープな内容を取り扱うインタビューになっています。


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■導入部の概略: Origin Systems入社から、UOプロジェクトの立ち上げまで

1992年 ルイジアナ州立大学で舞台芸術の学位を取得。

卒業後はQA(Quality Assurance = ゲームテスター)募集の広告を見て、Origin Systemsに入社。当初はゲームをやってお金がもらえるなんて夢のようだ、と思っていた。
その後はさまざまなOriginのタイトルのQA・プレイテスターを経て、1995年にはUltima9のアソシエイト・プロデューサーへ昇進、97年にはUOのディレクターに抜擢される。

1995年当時はまだインターネットが学術機関や先進IT企業だけが使っていた真新しいテクノロジーだった頃で、OSIのウェブページすら存在しなかった。
そんな時にUOの構想をリチャードから聞かされ、とてもエキサイティングなアイデアだと感銘を受ける。
ゲームは古代エジプトから遡れるほど古い歴史をもつが、そのほとんどは人対人でプレイするもので、現代におけるシングルプレイヤーのビデオゲームは特殊な存在だったということに言及。
ソーシャルな要素のあるマルチプレイヤーゲーム(UOのこと)は、ゲームの源流へと再び回帰するものになるのではないか、と予感する。

UOの開発にあたり、ひとつのサーバーに集中的にプレイヤーを収容してアカウント制でログインを管理するシステムを立案する。
当時はamazon.comさえ存在しなかった頃で、アカウントを使ってログインするシステムは主流ではなかった。
ゲームの仕様以前に、まずアカウントシステムのプログラムコードを書くことから始めなければならない時代であった。

当初会社の幹部はUOはサービス終了までに3万人程度のプレイヤー数を見込んでいたが、有料ベータテストの段階ですでに3万人を超える応募があった。
これにより当初の1サーバー体制を見直し、複数のサーバに分散してプレイヤーを収納する方針へ変更(UOでは各ゲームサーバをシャードと称する)。
当時のネットインフラはダイアルアップによるナローバンドが主流であったため、ベータテストのクライアントプログラムはダウンロードではなく、郵送する必要があった。さらに送料はテスター負担であった。
そんな状況の中、月額課金の有料制であったにも関わらずUOベータは最初の一週間で5万人ものテスターがサインアップするという好調な滑り出しを見せた。

その当時、UOのネットワークシステムを支えた分散サーバーの構築運用と、そのサーバに使用料金を課するアカウントシステムというアイデアは、ビジネスモデルとしては完全に新しいものであった。


■ゲームワールドを構築するという仕事について

インタビュアー:
シャード(ゲームサーバ)単位でゲームワールドを構築し、そのバランスを保つ(バグや脆弱性のフィックスを含む)仕事の中であなたはMMORPGの運営のノウハウを培っていったわけですが、その中で最初に起った問題はなんですか?

スター・ロン:
これはアルファテストの時の話なのですが、その時、私はサーバを立ち上げてブリテインの港で何をするでもなく突っ立っていたんです。
するとそこへ女性のキャラクターがログインしてきて、次に男性のキャラクターがログインしました。
すると、彼らはいきなりチャットセックスの為の商談を始めたんです(もちろんリアルマネーではなくGPで)。
我々はゲーム内に鍛冶や大工や裁縫などのゲーム内経済のためのクラフトシステムを用意していたのに、彼らはそれを差し置いて、いきなり人類でもっとも歴史のあるビジネスをやり始めたのです。
商談がまとまると彼らはどこかの建物へ一緒に入っていき、それから30秒ほどして出てきました。
これはとてつもない衝撃でしたね。
我々が作った世界の最初期に、我々人類の最古のビジネスが繰り広げられていたのですから。

インタビュアー:
UOのプレイヤーはPKや不正行為などに悩まされていたようですが、その対策はどうやって立てていましたか?

スター・ロン:
まず、我々はプレイヤー達をPKの脅威から守る為、街の中にセーフゾーンを設けました(いわゆるガード圏)。
このエリア内でプレイヤーが攻撃されると、ガードが攻撃者を排除するという仕組みです。
しかし街の外は危険がつきまとうエリアのままに設定し、セーフゾーンは一切設けないことにしたのです。リスクとリターンの概念が存在するようにね。

さらに銀行を導入しました(銀行はキャラクター単位で保管ボックスを無料で提供し、ボックスの中のアイテムは安全が保証される)。
先ほど街の外は危険なエリアになるといいましたが、銀行という安全な保管場所を用意することによって、プレイヤーは危険を冒して街の外を冒険し、たくさんの戦利品をもって街へ帰ってアイテムを保管する、というゲームループができあがるんです。

しかし、ある狡猾なプレイヤーはこれらのシステムを悪用することを思いつきました。
UOには移動用のテレポートゲートの魔法があるんですが、その狡猾なプレイヤーは銀行のドアの入ってすぐの場所にテレポートゲートを設置し、銀行へ荷物を預けにやってきたプレイヤーを街の外の人気のない場所へテレポートさせ、そこでプレイヤーを殺してアイテムを奪うんです。
よりよって、冒険から戦利品が満載されたバッグ持ち帰ってきて、いざ銀行のバンクボックスに預けようとしていた時に、です。

銀行は中に入るまで屋根のグラフィックが表示されているので、プレイヤーはドアの内側のテレポートゲートの存在に気づくことができないんですね。
実際テレポート先の場所へいってみると、人気の無い森の中に装備を剥ぎ取られた裸の死体の山が築かれていました(笑)。
このことからセーフエリアから危険なエリアへゲートで移動するときは、確認のダイアログが表示されるようになったんですよ。

インタビュアー:
まさにイタチゴッコのような状態だったのですね。

スター・ロン:
当初は経済システムも完全に内部で完結するような仕様を目指していました。
資源も貨幣も有限に設定して、価格や希少価値をコントロールしようとしていたんです。
貨幣経済の循環はもちろん、自然に存在する鉱石もウサギも生えてくる草でさえも、それらすべてがUOの生態系の中で循環するような、そんな完全な世界をね。
もちろんPKでさえもその循環のひとつの要素として勘案していたんです。

しかし、すぐにその理想のアイデアは現実の前に潰えてしまいました。

インタビュアー:
一体何が起ったんです?

スター・ロン:
プレイヤー達が世界に入ってくるなりやりたい放題したからですよ!

インタビュアー:
(笑)

スター・ロン:
プレイヤー達は、ゲーム内で生物を見つけ次第殺し、資源を手当たり次第に取っていってしまったんです。
我々の予想に反して、プレイヤー達は手に入れた資源をゲームの流通へと還元しませんでした。
ご存じの通り、プレイヤーハウスの中はプレイヤー達がかき集めたアイテムでいっぱいです。
我々が世界へ還元されると見込んでいたアイテムや資源は、すべてプレイヤー達のフトコロでストップしてしまっていたんですね。
ゲームワールドの基幹システムに生態系シミュレーターの概念を持ち込むのは一見理想的に見えるのですが、アーチャーを目ざすプレイヤーが矢の一本も買えないようになってしまうようではゲームとしてはダメなんです。
かといって、野放しにしてしまうのもいけません。
インフレーションによってアイテムの価値が一瞬で無価値になってしまうような危険性があります。

インタビュアー:
他のゲームタイトルではインフレの問題を実際に起こしてしまった例もありますしね。

スター・ロン:
とりわけアイテムデュープ(アイテムの複製バグ)は防がねばなりません。
我々はアイテムデュープを防ぐためにアイテム管理のプログラムコードに力を入れていました。

インタビュアー:
ゲーム経済のコントロールにおいて、フリーマーケット(完全自由経済)の導入はどうですか?

スター・ロン:
実はそれってとんでもないトラップなんですよ(笑)

インタビュアー:
(笑)

スター・ロン:
リアルワールドと同様、ゲームワールドの経済にも人為的なコントロールは必要です。
我々の経済のシステムも政府がコントロールしきれないのと同様に、ゲームワールドの経済のコントロールも非常に難しいです。
とにかく、プレイヤーは物を溜め込みたがるんですよ。
たとえ還元することによるメリットを用意しても、なかなか応じてはくれません。
でも所有欲は人としてのサガですから、しょうがない面もありますね。


■20年ぶりの大仕事、"Shroud of the Avatar"

インタビュアー:
再びリチャードとゲーム開発の仕事をすることになったわけですが、UOで培ったノウハウをSotAでどう生かせると思いますか?

スター・ロン:
やることの大枠はUOと全く同じです。
ひとつの世界を作り上げ、その中の循環を滞りないようにすることですね。
巨大な遊び場としてゲームワールドを用意して、プレイヤー達はその中で用意されたものを使って存分に遊んでもらえるような仕組みの構築。
それが我々の目指すコンセプトです。

他のゲームタイトル、例えばスターウォーズギャラクシーや、EVEオンライン、Star Citizenなど、クオリティの高いタイトルは沢山あるのですが、それらのゲームが目指す方向性は、ゲーム側がプレイヤーをガイドして遊ばせる、というものです。
一方我々は、プレイヤーにゲームワールドという遊び場こそ用意しますが、そこでの遊び方のほとんどをプレイヤーに一任するスタイルなのです。

我々が掲げている"プレイヤー主導のゲーム経済システムの実現"も、そのスタイルの延長線上にあるものです。
SotAにおける"最強のアイテム"はプレイヤーメイドのアイテムになるでしょう

インタビュアー:
それはいったいどういうものなのですか?

スター・ロン:
現在の構想では、ゲームシステム側が自動生成するアイテムよりプレイヤーがクラフトによって作り出すアイテムのほうが強力になる予定です。
プレイヤーはそのアイテムを自分で使うのはもちろん、他のプレイヤーに売却することも可能です。これもプレイヤー主導のゲーム経済システムを担うシステムの一環なんです。
例えば、私がロングソードを20本ほどクラフトで作り出したとしましょう。
剣には私が作ったという銘が入っています "crafted by Darkstarr"とね。
それを全てNPCの武器屋に売り払ったとしましょう。
武器屋の在庫にはそのうちの10本が在庫されます。他のプレイヤーがその店を訪れれば、私の名前入りのロングソードが買えるわけです。そしてそれはシステムジェネレートされた素のロングソードではありません。
では、残りの10本のロングソードの行方はどこへ?
その10本の私の名前入りのロングソードは、ゲームの流通システムへ還元されていくんです。
この流通システムに乗ったアイテムは、"ルートアイテム"として、モンスターの持ち物やダンジョンの宝箱の中へとセットされます。
クラフトされたアイテムはゲーム内を循環するようになります。
下水道にいるスケルトンがやけに強いな、と思っていたら、そのスケルトンはDarkstarrの作った切れ味の鋭いロングソードを装備していたからだった、なんてことも起ります。
それをまたお店に売ると、再びそのロングソードは世界のどこかへと流通していくのです。

インタビュアー:
そのシステムはテストされているんですか?

スター・ロン:
いえ、全く。

インタビュアー:

(笑)

スター・ロン:
我々の行っているクラウドファンディングによるゲーム開発のメリットは、プレイヤーは良いと思ったアイデアにダイレクトに資金提供ができるという点にあります。
まだできてもいないゲームやゲーム内のアイテムに投資するなんてクレイジーだと思う人もおられるでしょうが、その代わりに出資者であるプレイヤーはその開発プロセスに積極的に参加することができます。

SotAのマルチプレイスタイルは、プレイヤーが自由に選べるようになります。
我々はこのシステムをセレクティブマルチプレイヤーシステムと呼んでいます。
オフラインでのシングルプレイはもちろん、マルチプレイの世界を一人だけで遊んだり、フレンドだけと遊んだり、あるいは従来のように他のプレイヤー達とプレイすることもできます。
他のプレイヤー、と一口にいっても、マッチングするプレイヤーは過去に一緒にプレイしたプレイヤーになります。
ギルドメンバーやフレンドリストのプレイヤー、以前に取引したことがあるプレイヤーなど、あなたとの関連度が高いプレイヤーがオープンプレイオンラインモードにおいてもマッチングの条件になるんです。

インタビュアー:

しかし、サーバーが違うとマッチングはできないのでは?

スター・ロン:
SotAは一つのサーバだけで稼働するので、全てのプレイヤーが一つのサーバに収容されるようになります。
ゲームシーン(インスタンス)毎に収納できるプレイヤー人数が設定されていて、それを超えるとコピーインスタンスを作り、オーバーしたプレイヤーはそのコピーインスタンスへと収納されるようになります。もちろんその際にも前述の関連度によって、マッチングするプレイヤーが決定します。
我々はソーシャルな関係を通して、プレイヤーコミュニティが価値のあるコンテンツを生み出してくれることを望んでいます。

インタビュアー:
しかし、プレイヤーが開発側の望んでいたような、プレイヤー主導の経済やプレイヤーメイドのコンテンツに対して非協力的になってしまったとしたらどうでしょう?そうなってしまった場合、このゲームは一体どうなるのですか?例えば、バグの穴をつくようなプレイヤーばかりになってしまったとしたら?

スター・ロン:

とてもいい質問です。
確かにそのリスクは存在します。
我々は通常の出資者の他に、PlantronicsやMMORPG.comのようなパートナー企業を通してプレイテスターを募り、様々な方面のプレイヤーからフィードバックが得られるような体制をとっています。
もちろんフォーラムにポストすることによって、ユーザーとの関係を密にしていくこともね。
この間、1996年から続くギルドの年次総会に出席しました。ギルドメンバーが800人もいるんです。
SotAに出資してくれたメンバーも多くいて、ゲームに対するフィードバックの書類を作ってきてくれたんです。
それは50~60ページくらいのボリュームでした。

インタビュアー:

経済システムの話に戻りますが、経済システムのコントロールは、運営側がおおざっぱにパラメーターのスライダーを調整してバランスをとるような感じになるのですか?
それとも個々の小さなエレメントに調整を加えるようなものに?

スター・ロン:
調整は主にスポーンレートを調整するものになるでしょう。
ゲームシーンのモンスター、資源、NPCなどのスポーン速度を変更します。
我々は常に各ゲームシーンのモンスターや資源の消費速度をモニタリングしていて、その数値に異常が見られるときは実際にシーンをチェックして、プレイヤーが不正をしていないかどうかチェックできる体制を作っています。
常にシーン毎のデータを収集し、そのシーンでのコンテンツの消費速度の平均値を元にスポーンレートを調節していきます。

プレイヤーがシーンから回収するモンスターの持ち物や資源の量をモニタリングすると同時に、プレイヤーがモンスターを倒すために使ったアイテムの量のデータも収集しています。
たとえば魔法を使うための秘薬の消費量や、使ったポーションの量、減少した鎧の耐久値などです。
つまり、冒険で得たり消費したりするすべての収支の統計データをとっておいて、それを元にスポーンレートを決定していくわけです。

しかし、PvPで消費される物量について特別に考慮しておかなくてはなりません。
なぜなら、PvPで消費される物量は、これらのゲームシーンでの循環の外にあるからです。
ゲームシステムで得た資源(鉄鉱石やゴールド)を元にアイテムを修理したり購入し、再びそれをゲームシーンの中で使ったりするのがゲーム経済の循環(ゲームループ)です。
しかし、PvPはプレイヤー同士が手持ちの資源を消費して戦闘をするので、プレイヤー側の物量は消費されるだけになります。
PvPだけではプレイヤー間で持ち物が移動するか、あるいは消費されるかのどちらかなので、プレイヤー側にゲームワールドの資源やアイテムは一切移動しないのです。
ですから、PvPerが戦闘に用いるアイテムは、このゲームループから得られるもの以外で賄われなければならないと思います。
(註:過去の記事によれば、PvPには専用の武器防具や消費アイテムが用意されることになりそうです)

インタビュアー:
今日はどうもありがとうございました。特にゲーム経済を中心としたゲームワールドの話は非常に興味深いものでした。

スター・ロン:
いいえ、こちらこそ楽しい時間を。どうもありがとうございました。

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