Yahoo Gamesインタビュー: リチャード・ギャリオット SotAを語る

https://games.yahoo.com/blogs/plugged-in/richard-%E2%80%9Clord-british%E2%80%9D-garriott-takes-us-deep-into-the-world-of-shroud-of-the-avatar-204054433.html

米国Yahoo!Gamesのリチャード・ギャリオットインタビューから、いくつか興味深い点をピックアップして抄訳してみました。
クラウドファンディングからSotAのゲームデザイン、果ては宇宙旅行のことまで、インタビューは幅広い話題に及びます。

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我々はトレーラームービー合戦には参加しない


SotAのゲーム開発はクラウドファンディングとクラウドソーシングによって支えられている。
これはユーザーコミュニティが開発プロセスに深く関与できる開発スタイルだ。
ユーザーフィードバックを考慮しながらゲームに新要素を導入していき、ユーザーはテストバージョンをプレイしてその成果をすぐに確認することができる。
だから、トレーラームービーで期待させておき、実際フタを開けてみると肝心の中身は残念なデキでガッカリ、といったようなことは起こらない。
ゲームを実際以上によく見せたりはせず、ありのままの開発状況をユーザーに開示していくほうがゲーム開発にとってよりよいことだと考えている。


開かれたテスト環境は早期にエラーを発見できる


UOを開発していた時のことを振り返ってみれば、沢山の失敗をしてきたことが分かる。
ベータテスターが参加する前までは、我々開発チームはUOのバランスは調整がかなり上手くいっていると思っていた。
当時は生態系の概念も取り入れてみようと思い、時間を掛けて調整を進めていたんだ。
草食動物が植物を消費したりして、ゲーム内の生物の数が自然調整できるようなものをね。
そして、内部テストを終えた時点では上手く機能すると見込んでいた。
しかし、実際に大量のベータテスターがゲームの世界になだれ込んでくると、彼らはものすごい勢いでゲーム内の生物を倒したり資源を採集したりして、我々の想定以上の速さで世界のリソースを消費していった。
こうなってしまっては当初の生態系のバランスをとるどころではなくなり、ユーザーのためにリソースのスポーン速度を早めなければならなくなってしまったんだ。

SotAでもそんな失敗をしたことがある。
Kickstarterの時は、我々はワールドマップをシヴィライゼーションVのような3Dスタイルにすると発言していた。
しかし、予想以上に開発に課題が多いことに気づき、クロスマップスタイルの2Dマップへと変更したんだ。
だがこの変更はユーザーの反発をまねき、マップスタイルのついてのユーザー投票も行われた。
そして結局は再び3Dスタイルへと変更することになったんだ。
この一連の過程で、2Dマップの為に費やされた人的リソースはムダになってしまった。
しかし、ユーザーテストによりマップスタイルの評価が行われたことによって、路線変更の決断を早めることができた。
もし昔のゲーム開発(長期の内部テストを行うスタイル)であったならば、もっと長い開発時間とリソースをムダにしてしまっていただろう。

しかし周囲の声やフィードバックがあっても、譲ってはならないものもあると思う。
今まで開発してきたUltimaタイトルの中では、4と7とUOがセールス的に大ヒットをおさめることができた。
これらの作品に共通することは、作品が完成するまで周囲の理解を得られなかったものの、頑としてポリシーを曲げずに完成させたことだ。
それらの作品は、実際に発売してみるといずれも高評価だった。
これは民主的とはいえないけれど、"絶対にこれはいける"と確信したものに関しては、周囲の反対があったとしてもゲームデザインに組み込んでいくべきだと思っている。


サンドボックススタイルの魅力


マルチプレイヤーゲームにおけるプレイヤー達の行動は、はっきりいって私達にも予測がつかないものだと思う。
プレイヤー達の創意工夫は、我々の予想した枠など容易に超えてしまうんだ。
だから我々はゲーム内のアイテムを何千と用意し、プレイヤー達に自由にそれを使ってもらう。
アイテムを積み重ねて建造物のようなオブジェクトを作る人など、プレイヤー毎に色々なオリジナルのアイデアをもっているんだ。
SotAではそれを形にできるような、プレイヤーの自主性を尊重するシステムを組み込んでいきたい。
最初はとにかくプレイヤーの自由に任せてみるんだ。
それから修正が必要な部分を見つけていく。


UOが死んだ日 - トラメル・フェルッカ分割



"I actually think that when we split UO -- I was actually out of the company, so when they split UO into Trammel and Felucca, a PVP world and a non-PVP world, I think that that actually was the beginning of the end."

PvPとnon-PvPの住み分けはどのゲームでも行われるようになったが、私は安全なエリアとPvPエリアを完全に分けてしまうことには反対だ。
UOプレイヤーの印象的な体験談を聞くと、PvPの要素が絡んだものが多い。
たとえば、ダンジョンを攻略してお宝をバックパックに満載して、さあ帰ろうかというときに、ならず者達に出くわしてお宝を奪われてしまった、とかね。
その後、仲間を集めてならず者たちに仕返しをしたりして、PvPを通じてさまざまなプレイヤーの交流と展開があった。

しかしPvPがもたらす負の側面も大きい。
UOでは初心者はやたら殺される機会が多かった。
なかには親切を装って初心者のプレイヤーを外に連れ出し、誰も見ていないところで殺しを楽しむという輩もいたくらいだ。
そしてGMコールの多くはテクニカルな問題を解決するためでなく、こういった初心者のヘルプコールに多く使われることになってしまった。
経験を積んだプレイヤーがPKに遭遇したストーリーは魅力的なものだが、右も左もわからない初心者がオモシロ半分にPKされてしまう話を楽しめる人は少ないだろう。

SotAではそういった経験を踏まえてPvPの仕様を作ることにした。
まず、SotAではトラメルとフェルッカのような完全な分割はしない。
SotAはセーフエリアとPvPエリアが混在する世界になるだろう。
だが、PvPを望まないプレイヤーが被害にあうことは無い。街の中や、街を繋ぐ道路上は安全が保証される。
しかし、マップエリアの中にはPvPゾーンとして設定されているものがあり、プレイヤーは同意の上でそのエリアに足を踏み入れ、PvP体験に身をおくことができるようになる。


SotAはUltimaファンとUOファンの両方の期待に応えることができるのか?


Ultimaのストーリーベースのシングルプレイヤーゲーム体験と、UOのようなオンラインプレイのコンテンツを統合することは、SotAプロジェクトの大きな目標のひとつだと思っている。
非常におおざっぱな把握だが、SotAにUltima的な体験を求める人は2割で、残りの8割のユーザーはMMO的な体験に期待しているようだ。
シングルプレイヤーに期待する人達は、マルチ要素のおかげでUltimaのようなストーリーを楽しむ部分になにか悪影響がでるのではないかと懸念している。
さきほど話したPvPの話題でもそうなのだが、我々はプレイヤーの住む世界を完全に分割せず、共生できるようなデザインを想定している。
すべてのプレイヤーが同じ世界で冒険し生活する。
そのために我々はセレクティブマルチプレイヤーシステムを開発したんだ。
シングルプレイオンラインモードはシングルプレイヤー派にとってソロプレイの魅力を損なうことはないだろう。そしてマルチプレイの面のメリットを同時に享受できる。
また、マルチプレイの際にもダイアルアップ回線で問題なくマルチプレイが楽しめるような仕様を採用している。


エンドコンテンツという名の"引き延ばし要素"への懸念、そしてその解決策


この課題はMMOについてまわる宿命とも言えるだろう。
我々はこの問題への回答を半年前の声明の中で発表しているが、今ではそれとは少し違った考えへと変わっている。
コンテンツ制作の中心を、開発側からユーザー側へ"ゆっくり"と移行させていこうと今は考えているんだ。
しかし、セカンドライフのようなプレイヤーの行動無しには何も生まれないようなスタイルはとらない。
プラットフォームを整備したからといっていきなり何かコンテンツを作れといわれても、多くのプレイヤーにとってそれは難しいことだ。
ムリにそうさせてもそのクオリティは低いものになる。
結果、プレイヤー達は低クオリティのコンテンツの山から、マシなものを求めて探し回ることになってしまうだろう。

しかし、近年ゲームコンテンツの制作ツールはレベルが高く扱いやすいものになってきている。
業界に関わっていない人であっても、ゲームコンテンツを作れるような時代になった。
現在我々はユーザーにゲーム内の音楽や、ストーリーなどのテキストコンテンツの制作、さらにはアイテムや建物といったオブジェクトといったものの一部を受け持ってもらっている。
そしてそういった中には、我々の仕事を凌ぐクオリティのものもあるんだ。

さらにはプレイヤータウンやプレイヤーギルド主催のクエストも行われている。
我々のサポートが全くなくても、それらのイベントはすべてプレイヤーコミュニティの自主性によって完全に完結している。
今後、コミュニティ単位でのクラフティングやゲーム内の経済活動などが活発化することが予想されている。
我々は今後もコミュニティの活動の行く末を見守り、また、なんらかの形で公的なサポートすることも検討しているよ。

YahooGames:
そういった活発にコンテンツ制作を行っているユーザーコミュニティに対して、開発チームが使っている制作ツールを提供する予定はありますか?

我々が使っているツールそのものを提供する予定はない。
あくまで我々が用意したシステムの上で、活動を行ってもらいたいと考えている。

例として、College of Armsというコミュニティの活動を挙げることができるだろう。
CoAは紋章(coat of arm)を制作できる外部ツールが開発された。
プレイヤーはウェブ上でテンプレートやパーツを組み合わせて紋章を制作し、実際にゲーム内でギルドのロゴとしてその紋章の画像を使用できるようになる。
さらにその紋章を入れたアイテムなどを作ることができるんだ。
世界中に自分達のロゴの入ったアイテムを広く頒布して、コミュニティの存在をアピールすることもできる。
ギルドクエストとして宝探しのイベントを企画して、目的の宝物が入ったコンテナとしてロゴの入った宝箱を使う、とかね。


リチャード曰く、"World of Warcraftは偉大なゲーム"



しょっちゅうWoWを引き合いに出すので、私がWoWを批判していると広く思われているようだ。
しかし、これは全くの誤解だ。
このタイトルのシステムにおける、"チャレンジ&リワード"のゲームサイクルは非常によく機能していると思う。
面倒な作業に陥りがちなレベル上げを面白いものへと上手に昇華している。
プレイヤーは何をすればいいか親切にガイドしてくれるし、目的を達成した後は次のレベルのコンテンツへと移行するのが非常にスムースにいく作りになっている。
プレイヤーは何をすればいいかわからなくなる、という心配がいらない。

しかし不満点もある。
そのひとつとして挙げられるのが、キャラクターが基準のレベルに達していないと探険できないゾーンの存在だ。
例えばレベルが10に足りないと入れないゾーンでは、そのレベルに合った敵の強さが設定されており、プレイヤーはほどよい難易度の冒険を楽しむことができる。
しかし、レベルが足りなくてもアイデア次第でそのゾーンを攻略できるのではないか?レベル制限によってゾーンから閉め出すことにより、プレイヤーからチャレンジするチャンス自体を奪ってしまうのはいかがなものか?
私はユニークなセンスでゲーム開発者を出し抜いてくるようなユーザーのことがとても好きなんだ。
私はユーザーの自主性の尊重することによって、MMOスタイルのマルチプレイヤーゲームに纏わる多くの問題を解決できるのではないかと思っている。


ゲームワールドとインタラクティブ性


ゲームのグラフィックは常に進化してきた。
Ultima1の時はタイルグラフィックを敷き詰めていくような感じだったが、5になるころにはグラフィックで色々なものを表現することが可能になった。
床の上にテーブスやイスなどのオブジェクトを置くとかね。
5ではさらに水深の表現やドアの輪郭に青い線を表示させて、魔法が掛かっているエフェクトの導入などもできるようになっている。

私は今こうやってスカイプでインタビューに応えているけど、たとえばの話として、会議室で我々が話をしているとしましょう。
そして突然オフィスが火事になり、この会議室に閉じ込められてしまったと仮定します。
丸焼きになってしまう前に、この会議室から脱出しなければなりません。
となるとまず、私はドアから脱出する手段を考えます。
そうだ、このドアのヒンジをスクリュードライバーで外してドアを取り外そう!
しかしスクリュードライバーは見つからなかった。
ではどうするか?
次は天井を見上げてみるんです。もし、防音加工タイプの天井であれば、それをやぶってパーティションを乗り越えていけるかもしれない。
しかし、天井は石膏ボードでできていてとても人の力ではやぶれそうにない。
よし、じゃあイスを使えば破壊できるかもしれないぞ。
しかし試してみたもののそれもダメだった。
じゃあ次は窓だ。
オフィスの窓は大体の場合、ガラスでできているものだ。
ならばイスで窓をぶち破って脱出しよう…

何が言いたいかというと、我々のおかれている現実では、ある状況に対して複数の解決手段が存在する、ということなんだ。
しかし、多くのゲームでは解決の方法はひとつだけか、あるいは複数あるように見せかけているだけだ。
これに対して私は非常に不満をもっている。
とくに"みせかけ”という、ユーザーを誤魔化す行為にね。

私はSotAの街をデザインするときに、この"みせかけのジレンマ"に陥った。
もしひとつの街を本当に縮尺通りに作ったら、建物の数は膨大になり、中身を作ることはとてもできない。
よって建物の入口はロックされ、プレイヤーは中に入ることはできなくなるだろう。
建物は建物でなく、ただの背景として見せかけの存在になってしまう。

例えば銀行の建物をリアルな縮尺通りに作れば、内部の部屋数は20以上にもなる。
ゲーム内での銀行の役割を考えれば、そんなだだっ広い空間や部屋数は全く必要ない。
もしリアルな縮尺をゲーム中で再現しても、銀行内部の部屋は無用の長物となってしまうだろう。
私はSotAではリアルな縮尺にこだわらず、ゲーム内のムダな部屋やロックされた見せかけの建物を排除することにしたんだ。

さっきの脱出のたとえ話のように、私はゲーム中のあることに対して、様々な解決手段をもちいることができるようなデザインにしたい。
たとえばカギのかかったドアの向こうに宝箱が見えるとする。
普通はカギを探すことになるが、木製のドアなら手に持ったバトルアックスでドアごと破壊して、宝箱を入手することができるように、とかね。
もし、カンタンに壊されて困るようなところなら、木製ではなく鋼鉄の扉を設置することにする。
じゃあ鋼鉄の扉ならカギを探すしかないのか、というと実はそうではない。
火薬の詰まったタルとキャノン砲をゲーム内に用意して、それでドアをぶっ飛ばすこともできるようにするんだ。
でも、キャノン砲は持ち運ぶことができないから、押してドアの前まで移動させる、という仕組みを作る。
もちろん本当にアクセスされては困るようなところ、ロードブリティッシュのトレジャーハウスなんかは、システム的にアクセスできなくする必要があるけどね。

それと、魔法で防御されたドアなんてのもあったね。
これはバトルアックスやキャノン砲では破壊できないものだ。
ちゃんとナゾ解きが必要なものになる。

私はゲーム中のシチュエーションに対して、"もしリアルの自分がこの状況にあったら、一体どうするだろうか?"という思考が生きるデザインを目指している。


リアリズムとゲーム性のバランス


作り手としては食事や睡眠といったリアルな要素をついつい取り入れたくなる。
しかしそれを歓迎するプレイヤーは実に少ない。
食べ物に関してはUOくらいのバランスがちょうどいいだろう。
(註:UOでは食べ物を食べなくても死ぬことはない。しかし、食べ物を食べて満腹度を上げると自動回復の速度が早まる。また、食べた瞬間に少しだけスタミナが回復する効果もある)

多くのゲームでは食べ物は回復アイテムとして登場しているようだ。
SotAでは食べ物は回復の他に、バフ効果をもつものになるだろう。
リアルでの食べ物の一番の魅力は、その味にある。
しかし、ゲーム中の食べ物をプレイヤーは味わうことができない。

そこでSotAの食べ物については、栄養面に着目することにした。
実際に多くの食べ物の素材の栄養を調べて見た結果、栄養素のデータを平均化すると、食べ物は50%が水分からできており、残りの50%は炭水化物・タンパク質・脂質が均等な割合で構成している。
しかし、実際の生活面では、その人によって必要な栄養素が違うんだ。
たとえば、ボディビルダーにとってはタンパク質がもっとも重要な栄養素になる。
トレーニングで傷ついた筋肉を修復するために、タンパク質を多く摂取する必要がある。
ゲーム中では、タンパク質は体を回復するための栄養素として機能する。

では炭水化物やミネラルはどういう扱いになるか?
これはフォーカスに関係する。マナの回復に使われるわけだ。

脂質は長期的にエネルギーが必要な場合に必須な栄養素になる。
脂質の摂取によって、持久力がアップするようになる。
これは長時間の戦闘や、ランニングの際に効果を発揮するだろう。

多くのゲームでもそうなっているように、食べ物はいくらでも食べられるわけではない。
普通の人がホットドッグの大食い大会のようなマネをすれば、間違いなくリバースしてしまうだろう。

このゲームでも同様に、胃の中に入れられる食べ物の量には制限が課されるようになる。
もし、あなたがマジックユーザーなら、炭水化物を多く含んだ食べ物を食べるといいだろう。
前線を張る戦士であるならば、タンパク質の多い食べ物を摂ろう。
また最大限に栄養のパフォーマンスを発揮するには、脂質の量は取り過ぎないようにする必要があるだろう。
あなたがゲーム内でアップルパイを作った時に、その栄養成分がチャートとして表示される。
その成分表を見ながら、それぞれのキャラクターの必要にあった食べ物を食べるということになるだろう。


リチャード・ギャリオット、宇宙を語る



YahooGames:
では、インタビューの締めとして、宇宙のことについて少しお聞きしてもよろしいですか?

RG:
ええもちろん。今でも宇宙のことは心に印象深く残っていますよ。

YG:
あなたの父、宇宙飛行士オーエン・ギャリオットは、あなたにとっても誇らしい存在だと思いますが、今回宇宙にいったことでより父親の気持ちがよりよく分かったのではないでしょうか?
あなたがソユーズのカプセルの中にいる時や、打ち上げのロケットの中にいる時、そしてカウントダウンが始まった時など、その時の心境はどういったものでしたか?
上手くいくと思っていたか、それも不安だったとか?

RG:
実際のところ、不安であっても、そうでなくても、とにかくやるしかなかったですからね。
覚悟をして臨んだ、といったところでしょうか。
私は元々物怖じしない性格をしているんです。
唯一怖くなった瞬間といえば、自分がまったく怖がりではない、ということを自覚したときくらいでしょうか。

宇宙へ出る前に、私はStar Cityにあるシミュレーターでトレーニングを受けていました。
そこには本物のカプセルがあって、それを使ってトレーニングをするんです。
本物と違う点は出入りがしやすいようにサイドにハッチが取り付けてあることくらいです。本物は上にハッチがついています。
打ち上げの2週間前にロケットの発射台のあるカザフスタンのバイコヌールへいきました。
本物のロケットを前にして、私はこれにのって宇宙へいくのだな、と思ったことを覚えています。

トレーニングとは違って、本物にはサイドにハッチがありません。
それにカプセルの中には安全装置とか実際に宇宙に出る時に必要な荷物なども積み込まれていて窮屈でした。
それにもともとソユーズのカプセルはあまり広くないんですね。
席につくと、となりの人と肩がぶつかるくらいなんです。
その時にはおしりとカカトをつけて、つま先も船体のカベにつけていなければありません。
そして頭も船体のカベに押しつけるような格好になります。
手は前に伸ばしておくか、コントロールパネルやハッチにつけて固定しておきます。
4人が席につくと中はもうギュウギュウです。そしてとても息苦しくなります。
3人なら、コンパクトカーにのっている時くらいの感覚なんですけどね。
とにかく、中が狭かった。

バイコヌール入りしてからは、実際に宇宙服を着込み、カプセルへ入る時は上のハッチから乗り込みました。
ハッチが開いた状態でも、カプセルの中は狭くて大変です。
身を縮こまらせて体勢を低くすると、周りがすごく暗く見えましたね。
あまりにも狭すぎて、シートの振動がつま先にまで伝わってくるくらいでした。
それにカプセルの中には積んだ荷物もいっぱいで、荷物がジャマして隣の席の人がよく見えないくらいなんですよ。
こんな状況では、もし緊急事態が起っても自分の力では脱出することはできないでしょう。
危機が目の前に迫っていても、です。
もしそうなってしまったら、あきらめて覚悟を決めるほかないですね。
その時はその時です。
恐怖心は不思議とありませんでした。

ロケット打ち上げの際には、ロケットの外側では凄まじい轟音が鳴り響いているのですが、ロケットの中はというと静寂そのものです。
閉所恐怖症でもないかぎり、ロケットの打ち上げ時に恐怖を抱くことはないでしょう。
ご存じの通りロケットの打上げは予定通り行われ、すべて滞りなく進行しました。

YG:
打ち上げ後は重力がグっとのしかかってきたのでは?

RG:
それがそうでもないんです。
ロケットはエンジン点火後に、ゆっくりと加速していくんです。
打上げ直後は、自動車が加速する時くらいのGよりちょっと強いかな?というくらいです。
しかし3分くらい後にロケットは加速段階へと移行します。
こうなるとシートに体がめりこんでしまいそうなほどのGがかかってきます。
しかし、打上げの間に1Gから最大3.5Gまで重力が変化していくのですが、その段階移行は非常にスムースで、エレガントと表現できるくらいゆっくりと変化していきます。

YG:
打上げ時の話を聞くに、私が思っていたイメージとずいぶん違っていたようです。

RG:
ええ、それから、まるでスポーツカーのクラッチを踏んだ時のようなwaaaah!という音が聞こえたと思うと、私は宇宙空間へと飛び出していました。
それから分離したロケットブースターの残骸が見えました。

YG:
民間宇宙旅行を実施している国家は現在ロシアだけですか?

RG:
ええ、しかしSpaceX社のDragon capsuleで生物を輸送する実験を今おこなっています。

YG:
それはすごいですね。

RG:
ええまったく。
今まではソユーズ(旧ソ・ロシアの有人宇宙ロケット)しか手段がなかったんですが、実験を重ねていけば、いずれはSpaceXのカプセルでも有人宇宙旅行ができるようになるでしょうね。

YG:
それが実現したらどうでしょう、もう一回宇宙にいってみては?

RG:
ええ、もう一度宇宙にいってみたいですね。
でも、あと5年から10年はよしておきます。
宇宙旅行は子供が大きくなってからの話ですね。
でも、もし娘が"パパ、宇宙にいかないで"といったとしても、パパのラックを信じなさいといって、私は宇宙旅行へと赴くでしょう。

YG:
残念ですが、そろそろ時間になりました。
今日は本当にどうもありがとうございました。

RG:
こちらこそどうもありがとう。

※註: リチャードと宇宙旅行については、JAXAのリチャード・ギャリオットインタビュー(日本語記事)もご覧下さい。
http://www.jaxa.jp/article/interview/vol63/index_j.html

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