gameindustryinternationalにリチャード・ギャリオットへのインタビュー記事が掲載されています。
UNITYエンジンがもたらした新しいゲーム開発環境と、既存のゲームデベロッピングの変革の必要性について語っています。
http://www.gamesindustry.biz/articles/2013-10-08-richard-garriott-the-power-of-crowd-sourced-development
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The Original Article is By Matthew Handrahan
Tue 08 Oct 2013 11:13am GMT / 7:13am EDT / 4:13am PDT
少し前の話になるが、UNITYテクノロジーズ社は新興デベロッパーの代表(growing community of developers)に誰を選出するか悩んでいた。
UNITYエンジンはまだ歴史が浅い。このエンジンの周知と箔付けの為になんとか有力なゲーム開発者を選出したい。名の知れた、そして長いゲーム開発キャリアを持った人物を。
年に一度行われるUNITEカンファレンス、オープニングの基調講演をそんな人物に引き受けてもらうことが出来た。リチャード・ギャリオット、言わずと知れた大ベテランだ。
これ以上ない人選といっていいだろう。
"最初のゲームは7週間で作り上げたよ、高校生の頃だ。放課後の時間を利用して開発したので、実質的なコストはほとんどゼロといっていいね"
基調講演の後、リチャード・ギャリオットからこんな話を聞くことが出来た。
"そのゲームのセールスで私は15万ドルを得た。だが、その後からは下り坂になる"
"今に至るまでゲームの開発費は高騰し続けてきたが、その投資に見合うだけのリターンは下がり続けているんだ。結局のところ、現行のゲーム産業はリスクに見合う投資を見込むことが出来ない。"
1981年にUltima1が発売された。このゲームタイトルの名は、ギャリオットと同時期にゲーム産業に身を置いていた人ならよくご存じであろう。斬新かつ重厚なゲームデザインに、危機感を覚えた同業者も多いと思う。
Ultimaというタイトルは常にロールプレイングゲームの最先端を走り続け、MMORPGという新ジャンルまで切り開いた。Ultima OnlineはMMORPGの基礎を築いたのだ。
しかしリチャードは言う。いつの頃からか、ゲーム開発にかかるコストと得られるリターンが合わなくなってしまった、と。
"やればやるほど割に合わないな、と思わされることが多くなった。精神的な満足は得られるものの、仕事量を考えれば到底見合うものではない。ゲーム開発は投資の対象として、経済的なリターンが低すぎる。"
そんなリチャードにとって、UNITYテクノロジーは自身のキャリアや業界の行く末にも大きな影響を与える存在となった。増大し続ける開発コストとそれに伴う投資リスクの減少、そして開発期間の短縮。登場から10年も経たないうちに、UNITYテクノロジーズ社はこれらの問題を解決するソリューションとして認知されることとなった。
リチャードは言う、"UNITYは開発環境にパラダイムシフトをもたらしたんだ"
"投資リスクに開発期間と開発コスト。ゲーム開発において際限なく膨れあがり続けたこの問題に、UNITYは劇的なリセットをかけたんだ"
小規模な開発チーム体制と膨大な開発予算の浪費、以前のリチャードのゲーム開発は、このブルートフォースによって成し遂げられてきた。
"Shroud of the Avatar"、このリチャードの最新プロジェクトはKickstarterで開発資金を調達した。
そしてUNITYの開発環境はたった90日でゼロの状態からShroud of the Avatarのラフデモを完成させた。しかもチーム全体でそのプロジェクトにアクセス出来、実際にテストプレイも出来るものだ。
"記念すべき年だ"
完成させたデモを前にリチャードは言う。
リチャードはUNITYの持つ可能性にいち早く気付いた人物であり、またそのポテンシャルを具現化させ周囲に認知させる伝道者としての自覚をも持っている。
これからのゲーム業界の縮小にあたり、UNITYエンジンは優秀な開発スタジオを救う第一の手段となるだろう。
ここでUnrealエンジンやジョンカーマック率いるid softwareのゲームエンジンを引き合いに出してみよう。これらのエンジンはレンダリングの優秀さを常に争ってきた。
私は2年前からUNITYのレンダリング力がこれらのエンジンに敵わないことを悟っていた。
当時の業界の評価では、UNITYエンジンはレンダリングの弱い時代遅れなエンジンとして片付けられていても仕方が無かっただろう。
しかし、レンダリングの美しさは我々の目指すゲームにとって必須ではない。私は先進的なゲームデザインで勝負をかける。
"現在、UNITYエンジンで開発されたiPadのゲームを語るにあたって、レンダリングがどうのこうのと言う人は殆ど居ない。もしそれがゲームにとって重要ならば、とっくに別のソリューションを選んでいるだろう。あなたがゲーム開発において重視する要素がデータ入力における操作性、ゲーム素材調達の容易性、コミュニティサポート、といったものであるならば、UNITYはそれに応える第一の選択になるだろう。
UNITYは会社組織としても、コミュニティの大きさとしても、右肩上がりの成長を見せている。UNITYはあらゆるカジュアルゲームの開発環境をカバーし、インディーズ・デベロッパーからの信頼も厚い。そして次世代家庭用ゲーム機のタイトルの開発を担う存在としても注目を浴びている。
UNITYは、既存のゲーム開発環境を提供する競合他社を脅かす存在になる、とリチャードは見ている。
リチャードは言う、"UNITYがカバーする範囲は非常に広い"
"あなたがファーストパーソンシューティングを作ろうと思い立ち、どのゲームエンジンを採用しようかと迷ったとしよう。
もしそのゲーム内容がシンプルなら、迷うことなく見た目がハデなものを選択すればよい。
しかし、高度なゲームデザインを目指すなら、まずゲームコンテンツの充実を念頭に置いた上で開発環境を選択しなければならない。"
"もしグラフィック最優先でゲームを作ろうものなら、製作進行はスムーズにはいかないだろう。美麗なグラフィックの製作には膨大な資金と時間を要し、その費用に見合ったリターンを見込むのが難しくなっていく"
"ゲームコンテンツの充実"(を優先する)というアイデアは、(UNITEカンファレンスでの)彼のプレゼンテーションにおける最も重要なものだ。
このアイデアは、今までUnrealエンジンやCRYエンジンのグラフィック描写力の影に隠れて日の目を見ることが少なかった要素といえる。
今後発売される次世代家庭用ゲーム機でも、ハードウェアを生かした強力なグラフィックをウリにしたタイトルがリリースされていくことだろう。しかし、グラフィック性能の差がゲームの価値を決定づける風潮は、今後は衰退していくと思う。
この点について、開発者側の視点についても触れてみよう。
ギャリオットにとって、エンジン間のゲームグラフィックの優劣は些細な問題でしかない。ゲーム素材を販売するアセットストアの存在を始め、手厚いサポート体制が充実しているUNITYエンジンの魅力は、グラフィック云々で覆せるものではない。
アセットストアではゲーム開発補助ツールが8000種類以上も販売され、そしてそのユーザー数は40万を越えている。アセットストアでのトップセラーは毎月9万ドルもの売り上げを誇っており、さらにアセットストアのセラーの10%は毎月1000ドルを売り上げている。
UNITYユーザーにとって、コンテンツのシェアは開発ポリシーと経済性を両立させる概念になっている。
そしてShroud of the Avatarもアセットストアの恩恵を大いに受けている。
ゲーム中にある岩や木、草花、動物などのオブジェクトモデルや、デティールを左右するテクスチャ等は、アセットストアで購入したりユーザーから無償で提供されたりしたものに改変を加えて用いている。
それらの改造を施したモデルやゲーム素材はShroud of the Avatarがリリースされた時に、提供元のユーザーに所有権と販売権を譲渡する予定だ。
リチャードは言う、"既存のゲーム開発環境にはムダがありすぎた。"
"ゲーム開発に当たり、(ゲーム素材やテクスチャ等を)全てを一からフルスクラッチする必要はまったくなかったんだ。融通できるものはデベロッパーやユーザー同士で融通すればいい。"
ゲーム産業に何十年と関わってきたリチャードにとって、ゲームプロジェクトごとにその素材を一から作る作業にリソースを食われ、ゲームコンテンツの充実や開発環境のイノベートがおろそかになるのは非常に不本意なことであった。
Shroud of the Avatarのプロジェクトを進めるにあたり、UNITYアセットストアはその重荷を肩から下ろしてくれた。
そのリソースは、Shroud of the Avatarで実装予定の斬新な会話システムなどの、新しいゲーム要素の開発に当てることが出来る。
さらにリチャードは言う。
ゲーム開発におけるクラウドソーシングの実現は、UNITYが起こした革命だ。
アセットストアが稼働してまだ数年だが、このクラウドソーシングが業界にもたらした影響は非常に大きい。今後クラウドソーシングは指数関数的な成長を遂げるだろう。
"もし、UNITYのコミュニティがシェアリングに対して協力的でなかったら、UNITYエンジンはここまで魅力的には思わなかっただろう。"
"ユーザーの誰もが無料、もしくは非常に良心的な価格でゲーム素材を融通してくれる。UNITYに関わる全ての人が、コミュニティに寄与する仕組みが出来ているんだ。この現象に立ち会えているのは、非常にユニークな体験だと思う。"
この記事の執筆者として、またジャーナリストとして、リチャード・ギャリオットのUNITY布教活動の背後にあるものが見えてきた気がする。
UNITYテクノロジーズ社とリチャード・ギャリオットの間には、ビジネスとしてなんらかの契約があったのではないか、と。
広告塔としてピーター・モリニューやブランアン・ファーゴではなく、リチャード・ギャリオットを選んだ理由、それはUNITYでの開発ノウハウを提供する代わりに彼の知名度を生かしてUNITYエンジンの布教活動をしてもらう、というわけだ。
リチャードは言う
"中期以降のUltimaやTabula Rasaの開発では、私はゲーム開発の「一部」として参加していたに過ぎない。開発に当たって作られた内製ツール類は、私にとって非常に使いにくかったが、ゲームはそのツール群によって問題なく作られていった。"
"結局、私自身がそのツール類を活用することはあまりなかった。まともにツールも使えない者が、デザイナーとしてワールドビルディングに関わることは出来ないからね。でも、Ultimaの初期作品群では私はゲームデザイナーとしてやってきたんだ。
Ultima後期ではデザイナーを管理するマネージャーとしての役割を果たしていたけれど、現場からは一歩遠ざかった形になってしまった。"
"この春、Shroud of the Avatarのデザイナー達とゲームデザインについて議論していた時のことだ。彼らは私の目の前でUNITYを使ってゲームデザインの変更を行い、すぐにゲームビルドを作ってテストプレイするのを見せてくれた。それを何度か繰り返しているのを見ている内に私は、「よし、今度はオレにかしてみろ!」と言ってしまっていた。その時の私はUNITYの使い方も知らず、チュートリアルも受けてないのにね。
その時気付くことが出来たよ。私はゲームデザインのマネージャーより、ゲームデザイナーとしての役割を果たすべきだ、と。
ゲームデザイニングのプロセスにおいて、私が直接寄与出来る余地はまだ十分にあると悟ったんだ。"
"随分長い時間が掛かったけど、やっと私の果たすべき役割を見極めることが出来た。神よ、私は道を誤るところでした。ゲームデザインのマネージメントは、ゲームデザイナーとして現場で仕事をしていないと務まるものではない、ということようやく分かったんです。"
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