旧世界の記憶:ファーストインプレッション


  



ブリタニアに初めて降り立った時のことは今でもよく覚えています。
電器屋で買ったきた銀色に輝く日本版のUltima Online The Second Ageのパッケージ、オビには30日間サーバー接続料金無料の文字。パッケージの隅には在りし日のOSIのロゴマークが。
裏側にはユニコード対応で日本語チャットが可能だとかいう文面や、ロストランドの積雪地帯でサイクロプスと戦う戦士の小さなスクリーンショット等が印刷されていたと思います。

喜び勇んで開封するとパッケージの内側は無骨な白一色で、内容はゲームのクライアントCD、アカウント登録用のレジストレーションコードの紙切れ、少し上等な紙質のブリタニアマップ(裏にはロストランドのマップも)、ゲームマニュアル、クイックスタートガイド。
中でも目を引いたのがゲームマニュアルで、それは漫画の単行本ほどの厚さがあり、コンシューマーゲームの薄い説明書に慣れていた自分には軽いカルチャーショックでした。(それ以前に触れた洋ゲーのDOOMやDIABLOのマニュアルが薄っぺらかったということもありますが)
もう当時のパッケージも処分してしまいましたが、何度も読み返したこのマニュアルだけは、表紙こそ失われてしまったもののセロテープで命を繋いで今も手元に残っています。


不慣れな手つきでアカウントを作成し、恐る恐るキャラクタークリエーションを進め、当時出来てそれほど時間も経っていない日本サーバwakokuに接続したと思います。
降り立った街はムーングロウ、確か夜でした。 当時は街の名前もわからず、マニュアルの巻末にあった各街のマップも役立てることが出来なかったので適当に彷徨っていると、ムーングロウ銀行に辿り着きました。
辿り着いたというより、プレイヤーが多く集まる銀行の前で思わず足を止めた、といった方が確かかもしれません。

そこには魔法使い風のローブ姿の人や、馬に乗った騎士のような御仁、全身を同系統の色でバッチリ決めたオシャレな職人風の女性や、全裸にバシネットを被った怪しげな風貌の人物などが居り、一目でそれがNPCではなく人が操作するプレイヤーであると分かりました。
初めてのPC(プレイヤーキャラクター)との遭遇に思わず嬉しくなるも、いきなり話かけるのも恥ずかしい。
どうしようかと思っていると、傍らを一羽のニワトリが通るではありませんか。
私はそのとき、大人達の前でちょっとした仕草を演出して興を博そうとする子供のように、照れ隠しついでにニワトリを攻撃することを思いつきました。
しかしそのニワトリは誰かのペットで 、襲いかかった私は即座にガード(衛兵)によって始末されました。呆然と幽霊状態で自分の死体のそばで佇む私を他所に、今まで銀行前でぶらぶらしていた人達が一斉に私の死体に群がってきます。
その死体がロクなものをもっていないのがわかるとすぐに人々は無言で散って行きましたが、裸にバシネットという異様な風貌の男だけがまた私の死体の傍らに立っています。
そして、その男が突然私の死体を解体し出したのです。
UOでは死体に刃物を使用すると、手足胴体頭部のパーツに分解することが出来、さらに手や足のパーツに刃物を使用すると 骨や肉が、胴体と頭部からは肝臓・心臓・脳味噌や頭蓋骨などが取り出せるいう非常に芸の細かい仕様でした。


参考画像:死亡


参考画像:解体

参考画像:並べ替え


参考画像:さらに変形

男は私の死体のパーツをパズルのように地面に並べ、なにやら面白ポーズを取らせて遊んでいるではないですか。
冒険の初っ端に起こったこの出来事はこのゲームの自由度と可能性を十二分に私に予感させ、奇妙な男が私の死体をせっせと並べ替える異様な光景に思わず感動した覚えがあります。
と同時に恐ろしくもなり、すぐにログアウトしました。
当時はログアウトの方法も分からなかったので、フルスクリーンからウインドウ表示に切り替え、ウインドウ右上ののクローズボックスの×を押して終了したのを覚えています。

興奮冷めやらぬままマニュアルを熟読し、自分の居た街のマップを調べ直したり、刃物が死体を解体するだけでなく、そこら辺の木からキャンプ用の薪を取ったり、ヒツジの毛を刈ったりするのにも使えるのを知ったり、幽霊状態からの復活の手順などを覚えました。
今マニュアルを読み返してみると、本当に出来ることが多いゲームだと思います。
特に記憶に残っているのは、「お金の稼ぎ方」という項目です。

まず冒頭にはとりあえず何か自分が手にすることの出来るアイテムを探せ、とあります。
~に何があるとか、~をこうしろだとか、そういった具体的な方法はまったくこの項には記されておらず、後は盗みも一つの手であるが腕に覚えが無ければ控えるように、としか書いてありません。
せいぜい小動物をやっつけて、肉や皮や羽を手に入れNPCの商人に売りさばきましょう、とアバウトな感じに書いてあります。(そして最後に他人のペットを襲わないように、と書き添えてあり、思わず苦笑いしたのも覚えています。)

その小動物がどこにどれだけ居るのか、どれくらい強いのか、どれから何が手に入るのか、等は全く書いてありません。
探索して生息場所を、戦いによって強さを、解体することによって報酬量を、そして実際に売りさばいてその価値を知れ、ということなのです。
コンシューマーゲームのロールプレイングゲームに慣れていた自分には全てが衝撃的でした。
まず何をすればいいのか全く分からない突き放し具合と、敵を倒せば自動的に手に入ると思っていたアイテムやお金の工面を手探りでやらなければならないのです。
動物を倒した後は自分の持っているダガーをダブルクリックして敵の死体にターゲットカーソルを合わせて解体し、さらに死体をダブルクリックして相手の所持品ウインドウを表示させ、そこから持ち物を自分のバックパックにドラッグ&ドロップで運ぶ作業が必要になるなど、全ての操作が新鮮の連続でした。
そもそもこの"何かアイテムを手に入れる"という行為、UOの世界では敵を倒すだけでなく、人が集まる銀行周辺で他のプレイヤーが捨てたアイテムを拾ったり、さっきの自分の様に銀行前で誰かが死んだらその死体を漁ってアイテムを奪ったり、はたまた銀行前で物乞いをしてお恵みをもらうという形でもかまわないのです。
また、中には街中でサイコロの半丁バクチを開催するギャンブラーや、ゴミアイテムである拾った水晶玉を使って占い師を始める者まで、UOのシステムは戦士・魔法使い・鍛冶屋等の規定のプレイスタイルの枠組みを超えた営みを収容する懐の深さと、それを許容する自由度があったのです。

じっくりとマニュアルを読み込み、いざリターンマッチと思っていた所、サーバーリストのオプションにもっとも回線速度が出るサーバを自動的に選びだす項目を発見しました。
初回プレイの時はサーバーリストに日本のサーバーがあることも知らなかった為、適当にWakoku(これも日本サーバーですが)を選んだのですが、この際仕切り直しということもありHokutoでプレイすることに決めたのでした。
以来、2000年の初頭までこのHokutoにお世話になることになりました。
今度はちゃんと戦闘が出来そうなステータスとスキルを選び直し、キャラクタの外見やシャツやパンツの色まで凝りに凝ってブリタニアに再び足を踏み入れた時の興奮は、自分のゲームプレイ体験の中で今でも一番のものであったと言えます。

これらUOのファーストインプレッションは全てが新鮮さに彩られ、もう二度とこんな体験が出来ないと思うと、1ゲームプレイヤーとして何か大切なものを失ったという感さえもあります。
当時の回線事情では、ネットゲームはテレホタイムの利用者がまだまだ大勢を占めていた時代でした。
国内のネットユーザーの年齢層も高く、UOだけでなくインターネットの楽しみ方自体が手探りの状態であり、その中でもMMORPGは比較的新しいインターネットの遊び方だったのです。
そんな事情も当時のUOの思い出に懐かしさと新鮮さを添え、古き良きネットワークRPGとして今も語り継がれるだけの土台を作ったのかもしれません。

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