Galactic Inquiry: リチャード・ギャリオット インタビュー Part2 リチャード、宇宙を語る

Galactic Inquiryはスペースコンバットシム"Star Citizen"を取り扱うネット配信のトークショー番組です。
今回はリチャード・ギャリオットへのインタビューの後半部になります。
前回のゲームの話からはうってかわって、自身が関わっている宇宙開発ビジネスについて語っています。
以下はインタビューの後半部の抄訳となります。

訳者は宇宙産業について素人なので、各所に理解が怪しい部分があると思いますが拙文どうか御容赦ください。

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インタビュアー:
あなたのメインの仕事であるゲームの開発の他に、サイドプロジェクトも手がけているそうですね?

リチャード・ギャリオット(以下RG):
多くの同世代の子供達がそうであったように、私も子供の頃から宇宙に対するあこがれをもっていました。
ただし、私の父親は宇宙飛行士だったので、他の子供よりかはより宇宙を身近に感じていたことでしょう。
今から30年前、私がゲーム開発者としてのキャリアを歩み始めた頃ですね。
その時はまだ私は両親と一緒に住んでいました。
実はその頃からいつかは宇宙へいってみたいと、夢ではなく現実的なものとして、宇宙空間への旅行を考えていました。そしてその為の貯蓄も計画していたのです。

30年前は民間人が宇宙へいくだなんて、本当に夢物語同然の話でしたが、今の時代は違います。
2014年現在は、民間人の宇宙旅行を実現するためのファンドがいくつも設立されていますからね。
その中に、2000年頃に設立されたスペース・アドベンチャーズ社という会社があります。
このスペース・アドベンチャーズ社は8回のミッションで7人の民間人をISS(国際宇宙ステーション)へと送り、そこでの滞在を実現しました。

インタビューア:

スペースアドベンチャーズ社はクライアント獲得のためにどんな活動を行っているんですか?

RG:
X-Prizeという民間宇宙開発に対する賞金制度を作りました。
弾道軌道上までロケットを打上げて、特定の条件を満たす有人飛行を達成すれば1000万ドルの賞金を獲得することができます。
このX-Prizeのおかげで民間レベルで宇宙ロケットを打上げることはめずらしいことではなくなりました。
また、ロシアは早期から自国の人間以外にも宇宙旅行を提供する事業を始めていました。
キューバとか韓国など、政治的・経済的に関連の深い国から希望者を募り、ロシアのロケットを使ってその国初の宇宙飛行士を誕生させる、という事業です。
宇宙飛行士に必要なトレーニングなどは、すべてロシア側でプログラムを組んでくれるわけです。
いわば民間宇宙旅行のはしりともいえますね。

そこで、スペース・アドベンチャーズのCEOであるエリック・C・アンダーソンはロシアへと出向き、民間ベースでのビジネスを展開できないか交渉にいきました。

まず、ロシア側の回答は、それを調べるための費用を払えというものでした(笑)
要求された"回答のためのコスト"は30万ドルほどです。
また、支払った結果、それが調べることができなかった、という回答であっても30万ドルを没収されるわけです(笑)
とりあえず私たちは大人しく30万ドルを払うことにしました。
そして結果は、"無事コストを調べることができた"というもので、一般の人を宇宙飛行士として宇宙におくりだすには、一人当たり2000万ドルのコストが必要だとことがわかりました。
"試算のための試算"の費用である30万ドルは、今でもまったくムダだと思っていません。それどころか、よい投資だったと思っています。
とにかく、宇宙旅行に必要な金額がどれほどのものなのか、見当をつけることができたんですから。
その当時、私はEAの株式を売却して費用を工面することを考えましたが、当時はIT不況の最盛期でとてもその2000万ドルを捻出することはできませんでした。
結局スペース・アドベンチャーズの初の民間宇宙旅行を果たす役目を、デニス・チトーへ譲ることになりました。
最近私はその時からホールドしていたEA株をよい値で売却し、幾ばくかの資産を築くことができましたが、もしその当時お金を工面することさえできていたならば、民間第一号に名乗りを挙げていたはずです。

そこでTabula Rasaの頃の話になるのですが、その頃Destination GamesがNCsoftに買収されることになり多額の株式を手に入れることができました。
また、NCsoftの代表と話し合って、宇宙からTabula Rasaのプロモーションを行うというタイアップにより、資金援助と6ヶ月の休暇を取得しました。
そして念願の宇宙滞在を実現できたのです。(註:リチャードはスペース・アドベンチャーズ社の8人目の宇宙旅行者)

インタビュアー:
民間の宇宙旅行の会社に投資する理由はなんでしょうか?商業的な理由なのか、それとも宇宙を身近にするためなのか?

もちろん民間の宇宙旅行の存在を周知したり、宇宙への興味を啓蒙したりするのも大きな目的のひとつです。
しかしビジネス的な面からいえば、宇宙関連のビジネスを政府機関だけではなく民間ベースでもやることにより、宇宙への進出のコストをもっと抑えることができるのではないかと思ったからです。

もし人類が宇宙に進出して、ある星を開拓することになったとき、最初に降り立つのはどこかの政府の宇宙開発機関になるでしょう。
しかしその際に食料などの物資の輸送が必要となります
膨大な予算がかかる宇宙開拓事業はいくら予算があっても足りません。
そこで開拓事業の一部を民間へとスイッチするわけです。
つまり、民間の宇宙船を使って開拓地へ食料などを輸送するビジネスが登場するわけです。
今だって、現在地球軌道を回っている人工衛星の多くは、政府機関のものより民間が打上げたものものが多いですしね。

X-Prizeは2000万ドルの賞金がかけられた民間のファンドによるプロジェクトです。
民間による最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテストで、私もプロジェクトに出資を行っていました。
(註:現在もリチャードはこのプロジェクトの理事を務めている http://www.xprize.org/about/board-of-trustees

当初このプロジェクトが発足したとき、その内容を聞いた人は大概は一笑に伏したものでしたが、このおかげで民間レベルでも低コストで軌道上へロケットを打上げるためのリサーチが一気に進んだのです。

政府機関は長い間、民間ベースでの宇宙ビジネスに対し沈黙を守ってきました。
なぜなら、宇宙飛行士の訓練プログラムなどの宇宙関連のノウハウを、自分達の息のかかった機関や組織のものにしておきたかったからです。
でも我々から徴収した税金で培った宇宙関連のノウハウを政府の関係者だけで独占してしまうのはフェアではないですし、投入する資金あたりの成果も民間ベースのほうがより効率的だと思います。

インタビュアー:

奥さんのレティシアさんも宇宙ビジネスに乗り気というお話を聞いていますが?

RG:
ええ、実はそうなんですよ(笑)
当初は本業のゲーム開発そっちのけで宇宙のことばっかりにお金を注ぎこむなんて、と妻に怒られていたのですが、その妻も先週Escape Dynamicという宇宙関連の会社へ参加することになりました。
(註: レティシア・ギャリオットはEscape Dynamicsにおける共同創立者・取締役社長兼最高執行責任者[Co-Founder & President & COO]の役職を務め、主に成長戦略を担当。TPG Axonやルネッサンステクノロジーズといった有名投資・証券会社で15年間の上級幹部のキャリアとゴールドマンサックスでの勤務経験がある。ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。 - 参考:Escape Dynamics役員紹介のページ

この会社は次世代ロケットの建造を手がける会社なんです。
ここ50年間ロケットエンジンには進化がなく、従来型のものは全て化学燃料を用いる方式を採用していました。
大まかにいえば推進剤と酸化剤を用いた方式のもののことです。
SpaceX社は従来型のロケットの扱いに関しては最高の技術をもった会社だと私は思っています。
着陸時のソフトランディングにもそれが生かされており、ロケットの再利用可能率は100%をマークしています。
そのおかげで運用コストを1億ドルから100万ドルまで下げることができたんです。

しかし、そこからさらに劇的なコストダウンを実現するには、あたらしいロケットエンジンの推進方式を開発する必要があるでしょう。
現在Escape Dynamics社では新たなメカニズムをもつロケットエンジンを開発中です。
これは併走する外部装置から電磁誘導で本体のロケットにエネルギーを供給し、外部と内部の両方から推進力を得ることができるのです。

インタビュアー:
それはどういったアピールポイントをもっていますか?

RG:
理論上では従来の方式よりもさらに30%の推進効率の向上を見込むことができます。

インタビュアー:
その燃料は?

RG:
それは旧来のものと同じです。水素燃料を用いることを想定しています。
ただ、このテクノロジーの実現は簡単なものではなく、あと5年間か、それ以上の時間を要するでしょう。
しかし実現することができれば、宇宙ロケットの運用コストを劇的に下げることが可能になるでしょう。
現在SpaceX社は一人当たりの費用を100万ドルまでコストダウンすることに成功しています。
ちなみに私が宇宙にいった時は3000万ドルくらいかかったのですから、劇的なコストダウンと言えますね。
しかし、妻の会社のプランが想定通りに進めば、ここからさらに同じ程度の(桁が下がるくらいの)さらなる劇的なコストダウンを実現できるのです。
地球低軌道までならば10万ドル程度でいけるようになるはずです。
南極へトラッキングに出かけるのに5万ドルかかるわけですから、より多くの人が宇宙へ行く機会が増えると思います。

インタビュアー:
SpaceXへ出資を決めた理由はなんですか?

RG:
今まで私が出資してきた宇宙関連企業はたくさんあります。
そしてまたそれらの多くがマーケットから姿を消していきました。
しかし、出資した企業の中でもX-Prizeファンドの成功や、スペースアドベンチャーズ社やCorp X社によるコスト面に優れた民間宇宙ロケットの開発競争など、成功した出資も数多くあります。

インタビュアー:
SpaceX社の計画しているプロジェクトで、サラ・ブライトマンがクライアントになると聞いていますが?

RG:
ええ、サラ・ブライトマンを国際宇宙ステーションまでロケットで移送します。現在彼女はその為のトレーニングの最中で、来年の夏に宇宙へ出発する予定になっています。

さらにスペースアドベンチャーズ社ではCircumLnarというプロジェクトも現在進行中です。
アポロが月に降りたって以来、人類は月の地を久しく踏むことはありませんでした。
しかし、我々のプロジェクトでは月の低軌道より低い高度を宇宙船で飛行し、月の裏側まで行く予定です。
現在希望する顧客を募集中で、応募者の名前を公表することはできませんが、その内の何人かはすでに数百万ドルのデポジットを支払ってくれています。
このプロジェクトにはロシアの協力を取り付ける必要があるので、実現するまで3~5年は必要でしょう。
しかし、実現すれば民間企業が月へいくという史上初の快挙となります。

インタビュアー:
あなたはソビエト製の月面車を所有しているとお聞きしましたが?

RG:
ええ二台所有しています。
いまも月面に取り残されたままになっていて、バッテリーもとっくに切れてしまっているでしょう。
しかし、まだ稼働するはずです。太陽電池も生きていると思いますから、給電すれば使えるようになると踏んでいます。

たとえば月面40km平方をわたしの月面車のホイールで耕して、その土地の所有権を主張する、といったとこともできるわけです。
ただ月面にいるだけでこの星は私のものだ、と主張しても国際的な会議で否定されてしまうでしょう。
しかし、例えば誰の土地でもない砂漠を耕して農場を築いたならば、誰もがその耕した人の土地であると承認すると思います。

インタビュアー:
月で先住権を主張するわけですか

RG:
その通りです(笑)
Google X-Prizeというグーグルがスポンサーのコンテストもあるんですが、これは民間製の探査機で月面の写真を撮るというものです。
最初に成功させたチームには2000万ドル、二番目に成功させたチームには500万ドルの賞金が支払われます。
その中のボーナスプライズとして、アポロ計画以外で月面に残された人工物の写真を撮っても100万ドルの賞金がでるんです。
アメリカもロシアも政治的な理由で自分達が着陸した場所には近寄って欲しくない、と声明を出しているわけですね。
そこで民間のチームは私の月面車を撮影しにくるかもしれない。
元はソビエト製の月面車ですが、今は私の所有物になっているわけです。よって政治的な障害はなにもありません。
ですから、ぜひ私の月面車を撮影なさい、とワナを張っておくわけです。
そしてもしそれにのって、私の月面車の写真を撮影されたら、所有物を勝手に撮影されたとして、不法侵入か何かの罪で100万ドル以上の賠償金を請求するわけです。
でも、その写真を私に渡すなら100万ドルを逆に進呈するという取引をもちかけるんです。
裁判記録として残りますから、月面の民間所有物の関しての前例と既成事実を作ってしまうことができるわけです(笑)

インタビュアー:
バウムガードナーのような高所からのジャンプを体験するツアーを考えているという話を聞きましたが?
(註: バウムガードナーは成層圏からのダイブに成功し、ダイブ高度世界一の記録を作った人物)

RG:
バウムガードナーはヘリウム風船で成層圏まで上る必要がありましたが、民間のロケットを使って上ってもいいわけです。
現代のテクノロジーを用いれば、ロケットにせよ宇宙服にせよ、技術的な問題はありません。
10万フィート程度の高度ならすぐにいける時代になりました。
バウムガードナーの記録を大幅に塗り替えるような25万フィートとか、50万フィートの高度までロケットに乗せてもらえる権利をオークションか何かで販売する、というのもビジネスになるかもしれません。

インタビュアー:
民間の立場から宇宙にかける熱い思いを語っていただきましたが、実際にあなたが生きている間に、民間の宇宙産業はどこまで成長すると思いますか?

RG:
私がが子供の頃にアポロ計画が達成されました。
いわば私の世代はアポロ計画による宇宙の洗礼を遍く受けた世代といえるでしょう。
ペイパルの創業者はSpaceX社を創立しましたし、Amazonの創業者ジェフ・ベゾスも宇宙産業の会社を設立しました。
私もそうです。ゲーム産業と宇宙事業の両方に力を入れています。
ゲーム業界といえば、DOOMやQUAKEで有名なジョン・カーマックだってそうなんですよ。
彼も航空宇宙開発の会社アルマジロ・エアロスペースに出資しています(註:残念ながら2013年に同社は活動を休止)
つまり、アポロ世代はみんな宇宙に対するあこがれを抱いているんです。
今はそのアポロの時代よりもずっとずっとテクノロジーが進化しているわけですから、技術的な面でも決して宇宙は遠いものではないと思っていますよ。

インタビュアー:
今日はゲームから宇宙まで、自身の仕事について情熱的に語っていただきました。
あなたとの会話はいずれも興味深いものばかりでした。どうもありがとうございます。

RG:
こちらこそ素晴らしい番組に招待いただき感謝していますよ。
(Star Citizenの)成功を祈っています。

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