旧世界の記憶#2: デルシアの裁縫戦士

物心がついてから人の記憶が形になる様に、UOプレイヤーも右も左もわからない頃の記憶は非常に断片的で、ある程度方向性が決まってからの方がどこで何をしていたかをよく覚えているのでないでしょうか?
私自身もHokutoの地に足を踏み入れてからの記憶は非常にぼんやりとしたもので、果たしてどこの街からスタートしたのかもハッキリしません。
ただ、スキルは剣術と包帯治療を選んだのを覚えています。
スタート後はたしか、銀行前で拾ったプレートメイル(*1)を着ようとしてSTRが足りなかったり、動物の肉をどこの肉屋に持ち込んでも買いとってくれなかったり、森でシカなどをテイミングしたり、テイミングしたシカもろともPKに殺されたりと、そんな風にブリタニアで暮らしていたと思います。

(註1:当時はNPC販売の鎧の色は商人によって違い、しかもパーツ毎に微妙に色あいも異なっていたので、一揃いの鎧セットを同じ商人から買ってもチグハグなカラーコーディネートになってしまった。しかもNPC製は地味な色が多かったので、PC製の立派な鉄色で統一されたフルプレートを着たプレイヤーが一際まぶしく見えた)

しばらくそうやって世界を彷徨った後、どこかの街の銀行前で誰かと会話した時に「初心者ならモンスターを狩って生計を立てるよりも、低リスクな動物狩りから始めるとよい」というアドバイスをもらいました。
まず一般的な動物の戦闘力はそれほどないので、比較的ローリスクに戦闘系のスキルの鍛錬が出来る。
また、動物からは肉と皮が取れ、肉は生で売るよりも焼いてしまえばプレイヤーにそれなりの値段で売れるし、余った分は自分で食べることも出来る。
それにクッキングのスキルはステータスが上がりやすいので、駆け出しのプレイヤーには丁度良い。
そして動物の皮は他のプレイヤーへの売却はもちろん、自分で加工して皮鎧にすればNPCでもPCでもまとまった値段で売れるという話を聞き、じゃあそれならと裁縫戦士としての道を歩み始めたのです。
最後にロストランド(*2)のデルシアという街は動物がたくさんいるらしい、という情報を教えてくれました。
"デルシアの街へ行く"がUOでの最初のクエストになったのです。
(註2:正式名称はロストランド。当時この新しいマップ領域は"T2A"とか"新大陸"、などと呼ばれていた。)

ロストランドに行くには複数のルートがあり、その中で最も簡単なルートはムーングロウの街の魔法屋から魔方陣でワープする、というルート。
ムーングロウは歩き回ったことがある土地で、当の魔法屋にも立ち寄ったことがあります。
問題は今居る街からムーングロウへどうやっていくか。
これもそう大した問題ではなく、ファミコン版ウルティマ4のプレイ経験のあった私は、ブリタニアには月齢によって行き先が変わるムーンゲートというワープポータルがあることを知っていたのです。
早速NPCに現在地の街の名前を聞き出し(トリンシックだったと思います)、手元の紙製マップで最寄りのムーンゲートへのルートを確認し、街の門を出発しました。
トリンシックの南門を出ると、すぐに海岸が見え西へと進むと丘陵地帯に建ったPCの家々が見えてきます。
丘に建った家々にはNPCベンダーが居り、武器や防具を始め冒険に役立つ品や魔法に関するアイテム類、さらには贅沢なレアアイテムが高値で並べられています。
今は無一文同然なこの身の上、しかしいつかはブリタニアに家を構え、戦利品を売って暮らす日々を夢見つつ、丘を越えムーンゲートに辿り着きました。
ムーンゲートの使い方もファミコンのウルティマと同じです。
目的の場所に出るまで何度も出入りを繰り返す、という非常に原始的な方法です。
土地勘がないので、出入りするたびに地図を片手にムーンゲート周辺を探索し、周囲の景色と各地のムーンゲートの位置を照らし合わせて地図上の位置を特定します。
この方法はおそらくほとんどのUOプレイヤーが実践し習得した旅の心得ではないでしょうか。
レーダーマップで右に道が見えればブリテイン、南東が海でジャングルならジェローム、周囲の森の木の密度が濃ければベスパー/ミノック、薄ければユー、といった具合に、今でもレーダーマップを見ればどこのムーンゲートなのか分かる自信があります。

首尾良くムーングロウに辿り着き、魔法屋のペンタグラムでrecduの呪文を唱えロストランドのパプアの街に飛びます。
魔法屋の外に出てみると、景色は打って変わって未開の土地のようです。
ワラ葺きの屋根に細い木材をそのまま建材にしたような支柱。
まるでリゾート地にあるコテージのような建物を前に、遠い土地まできたものだと長旅の感傷に浸ります(実時間で10分も掛かっていませんが)。
手元の地図を裏にめくり、パプアからデルシアへのルートを確認。
宿屋で食料を買い込み、ヒーラーで包帯と安いヒールポーションを数本購入、最後に銀行でゴミ拾いをして有用そうなもの拾得。
初期装備のロングソード、ノート、ローソク、スペルブック、負傷に備えて包帯とヒールポーション(一番安価なもの)、毒に備えてキュアポーション(やはり一番安価なもの)、食料のパンが数個、拾ったオークヘルムに骨の鎧を身にまとい、さらに左手には木製の丸盾を装備。
バックパックの中身も装備品もまさに駆け出しの冒険者(お針子志望)たるオーラが滲み出ています。
万全の体制を整え野望を胸にパプアの南門を出るも、銀蛇(*3)に追い回され2画面分も目的地デルシアに近づけず死亡。
上記の初期装備以外を全ロストし、銀行前の知らない人に興奮気味に先ほどの冒険譚を話した所、気の毒に思ったのかデルシアまでゲートで送ってもらうことになりました。
(註3:正式名称はSilver serpent。最高レベルの毒攻撃とテレホ泣かせの移動速度を持つ。一度ロックオンされると一部のブロードバンド回線のプレイヤー以外は銀蛇から逃げ切れないことが多かった)

幽霊ローブ一つでデルシアに降りたってからは、私は初心者時代のほとんどをこの土地で過ごすことになります。
デルシアの街はお店の種類は少ないものの、魔法屋・鍛冶屋・雑貨屋・裁縫店・皮革取引業者等、主要なものは揃っています。
街全体が鉱山に取り囲まれるように一体化しているので、鍛冶屋や採掘士が鍛冶場を中心に忙しく行き交い、銀行の前には新天地を求めてやってきた冒険者やそれを相手に一儲けしようと露天商で賑わっていました。
ゲートで送ってくれた親切なプレイヤーに励ましの言葉をもらい、こちらも礼を返すと、彼も銀行前の人混みへと消えていきます。
ここからは自分一人でなんとかお針子としての道を歩んでいかねばなりません。
銀行に預けている数百GPのお金と、くたびれた初心者用のロングソードだけが頼りです。
そしてデルシア銀行前に落ちているゴミアイテム類(*4)も…。
(註4:新大陸の街はデルシアとパプアの2つしかなく、利便性においてデルシアが勝っていたためデルシア銀行前はブリテイン銀行前と並んで人口が多いスポットであった。その為銀行前のゴミアイテムの量も豊富な上、蜘蛛型モンスターから出る低級マジック武器がやたら捨てられていたので、死んでアイテムロストしても銀行前で張っていれば何かしら武器にありつくことが出来た)

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