SotAのコミュニティマネージャーによる連載小説"Through the Lunar Rift!"の翻訳を掲載しています。
アバタールの手記という形式を取り、実際のゲーム内の舞台や人物が登場するショートストーリーとなっています。
#1 The Darkness in Owl’s Nest - オウルズネストの底には
#2 Conspiracy in the Clink - 牢獄Clink
#3 The Chaos Outside of Kingsport - Kingsportの受難
#4 The Body Count in Braemar - ブレーマーの惨劇
#5 On Wolves, Bears, and the Darkness... - 大いなる自然の警告
#6 Curiosity and Stone Circles - 新世界への憧憬
#7 Of bones and Throne - 骸達の上には
#8 Stone Circles and Paths Taken - ゲートの向こう側へ
#9 Who Watches the Watcher? - 機械仕掛けの瞳の奥に
#1 The Darkness in Owl’s Nest - オウルズネストの底には
この手記を書いているときわたしは、体験した出来事を記録するために書いているのか、起こった出来事を自分に納得させるために書いているのか、わからなくなる時がある。ここへやってきてもう一年が経つ。
しかし、ここはまだ夢の中で、いつかふと目が覚めて現実に帰ってしまうのではないかと、そう思うことさえある。
が、夢か現かはともかく、"ここ"での体験を綴っていくことにしよう。
ワケありの品を扱っているLaurentとは付き合いがある。
最近彼に元気がないのは、少なくとも品物を積んだ船便が遅れているからというわけではないようだ。
荷の遅れを口実に少し彼に話しを聞いてみようと、わたしはオウルズ・ネストへと向かった。
6ヶ月前、まだわたしは夢うつつで街のはずれを歩いていた。しかしその時からわたしは自分の力に自信を持ち始めており、暗闇に怯えることもなくなっていた。
とりわけ火の魔法には覚えがあった。
オウルズ・ネストについたが、洞窟の中に広がる暗闇を見て足が止まってしまった。
The Wolfの死を想い出したのだ。彼は、Laurentやその取り巻き達のリーダーだった男だ。
しかし、わたしが足を止めた理由はそれだけではない。
The Wolfは死後、ネクロマンサーの手によりアンデッドとして支配下に置かれているのだ。
この地で魔法の力の前に屈した者は数多くいるが、まさかダークマジックの使い手まで存在するとは思っていなかった。
そして今、ここオウルズ・ネストの面々は、ネクロマンサーのNestorの恐怖支配の下におかれているというわけだ。
もっとも、荷物をこちらに突き出すLaurentの姿を見るまで、半ばその名前を忘れていたのだが。
正直なところをいえば、わたしだって恐ろしい。いっそ一声あげて逃げてしまいたいとさえ思っていた。
しかし、持ち前の好奇心がわたしの足を前へと動かす。いつかそれが命取りになるだろうとは思うが、知りたいという気持ちの方がまだ強い。
Nestorもわたしと同じアウトランダーなのだろうか?どうやって魔法を習得したのか?習得にはどれくらいの時間を?
そして死体をあやつる術をどうやって知ったのか?
そして、Nestorはブレーマーの出身というウワサは本当だろうか?
おそるおそる、レッド・サッシュ盗賊団の"家"へと足を踏み入れていった。
わたしはそこで、盗賊団のメンバーであるKellyからいくらか情報を仕入れることができた。
KellyはThe Wolfとともに盗賊団を率いていた女性だ。
彼女の話の様子から、Nestorを激しく憎み、また恐れていることを見てとれる。
Kellyの話によれば、Nestorはいにしえの魔導師団、オブシダン・カバルの一員であることを名乗ったそうだ。
かつて、オブシダンの魔導師達が長きにわたって世界を支配していたことは知っている。
しかしいつしか彼らは姿を消し、伝説上の人物となったはずだった。
オブシダンの軍勢は日に日に世界を暗黒へと陥れていく。
そして彼らは世界中の森や薄暗い場所へ潜んでいる。
知ってか知らずか、ここVale島のネクロマンサーもそうらしい。
しかし、ここまでの力を持ちながらなぜ、Nestorは盗賊風情の穴蔵に身をおいているのだろうか?
仕入れた情報を頭の中で整理しているうちに手元の照明が消えてしまった。
しかし、オウルズヘッドへと足を向ける前に、わたしは一目ネクロマンサーの姿を見てみようと思い立った。
後にこの決断を後悔するなんてことは、きっとないはずだ。
もしこれが夢の続きなら、この冒険譚を土産に目覚めてみるのも悪くはないだろうからね。
#2 Conspiracy in the Clink - 牢獄Clink
ようやく屋根裏の修理をする決心がついた。もちろん腐った屋根裏のカビの臭いが一階の酒場まで漂ってきているのもその理由の一つなのだが、一番の懸念は屋根裏に置いておいたタルのことである。
アレがいつかロフトのボロ床を突き抜け、Thomasの頭の上に落ちてくるのではないかと、今まで心密かに心配していたのだ。
まったく、前代のオーナーは大工仕事のひとつもできないズボラだったに違いない。
かくいう自分もそうなのだが、幸運なことに私には便利屋Mortonがついている。
彼は酒さえ入っていなければなんでもござれの男である。
つまり、この修理案件は大ジョッキのエール酒でカタを付けることができるというわけだ。
仕事が終わった暁には、いつものように酔っ払ったMortonをThomasが酒場の外につまみだそうとするだろうが、その時ばかりは労に報いて大目にみてやるよう、取りはからう必要があるだろう。
まず、修理に入り用なものを用立ててもらうためにMyraのところにいったのだが、どうも彼女の顔色が優れないようだ。
ここ最近は毎晩泣いていたかのように目が赤らんでいて、今も涙がこぼれてきそうに見える。
普段は余計なことに首を突っ込まない主義である私なのだが、今回ばかりはそうもいくまい。
私は彼女の心配ごとについてたずねることにした。
彼女にはMyronという弟がいる。
腰抜けMyronとあだ名されているあたりその評判はよろしくはない。
似ても似つかぬ姉弟のように思えるのだが、名前からも想像がつくように彼らは立派な双子である。
彼女の話によれば、現在Myronは地下牢のClinkに幽閉され拷問を受けている。
しかしMyraにはどうすることもできない。
夜ごと彼女が流す涙は、弟の身を案じた故のものである。
彼女は私に弟の救出を懇願した。
以前、彼女もLord Enmarに弟の解放を直接頼み込んだことがあったそうだ。
しかし、Enmarは"腰抜け"の代償は獄死によって支払われるべきだ、と突き放した。
我らがEnmarも、戦場から逃げ出した卑怯者にはかける情けはないという。
さてどうしたものか。
誰にでも、いつか自分の弱さを試される時がやってくる。
その時、寸分考える間もなく決断を迫られるとすれば、あなたはどうするだろうか?
とりわけ恐怖に駆られていたとなれば、大概のものはMyronのように逃げるか、さもなければ自棄をおこして斬りかかっていくか…。
一通りの事情を飲み込んだあと、私はMyraに協力することを申し出ることを決心した。
まず私はClinkの所長であるTullyのところへと向かった。
Myronの保釈に必要な金額を調べるために台帳のページをめくってみたが、敵前逃亡の罪はお金ではカタをつけることができないことがすぐに分かった。
Myraのことを思うとこのまま手ぶらで帰るわけにもいかない。
わたしはMyronとの面会を願い出た。が、許可は下りなかった。
囚人にも面会の権利があるだろうと食い下がると、Myronは他の囚人に暴力をふるった為に独房に入れられているので、面会の許可はだせないという。
しかし、Tullyの言うことはどこまで本当の話だろうか。
食い下がる私に対する態度をみる限り、おおかた彼らの説明はウソだろうと思うが…。
酒場で聞いた噂話から勘案するに、ここオウルズヘッドの街で悪巧みをしている者がいることは間違いないだろう。
そもそもClinkでの労働で負債を償還し自由の身となった者など、一人としていないことが分かった。
しかしこれらの話が本当だったとして、どうやって無罪の人をClinkへと連行したのだろう?
そしてClinkでの強制労働に対して、オウルズヘッドの住民はどうして表だって声を上げないのだろうか?
ともかくここまで知ってしまった以上、突っ込んだ首を引っ込めるわけにはいかなそうだ。
#3 The Chaos Outside of Kingsport - Kingsportの受難
私がニューブリタニアにやってきた当初は、まだ交易航路を自由に行き来することができた。荷の扱いを生業としていた私は、ある日この扱っている荷が実際にどこへどう届けられていくのか、ふと自分の目で確かめてみたくなった。
きっかけは何の気なしにつま先を海に浸した時の、あの感覚が忘れられなかったからだ。
今度は全身を海に投げだし泳ぐことを想像しながら、ビジネスのための出張という格好をつけて、私はキャラバン隊の船に乗った。行き先はキングスポート。
しかし、滞在している数日間の間に、突然ブリタニーとの交易船が途絶えてしまった。
この趣き深い港町も、こうなってしまっては今後厳しい状況に陥ることになるだろう。
私がこの短い間に出会ったキングスポートの人々は、誰もがいい人だったように思う。
街のお偉いさん(この太ったギルドマスターは謙虚を体現したような人だった)でさえそうだった。
そんないい人達が突然こんな不幸に見舞われてしまうなんて…。
そんな状況の中、街にとどまる人達もいたけれど、多くの人はキングスポートを離れていってしまった。
その時期と前後して、島の交易路にアンデッドが徘徊するようになったというウワサが立った。
死体が歩くなんて信じられるか、という人もこの島には多くいたようだけど、大陸からやってきた私とって、アンデッドがそこらをウロウロしているのは日常茶飯事のことだ。
だから、このウワサは本当のことだろうとすぐに信じることができた。
そしてあの"魔法の力"が、この離島をも浸食し始めたことも。
もし私の出身をご存じなら、私が魔法は絵空事とほぼ等しいものだと考えていたことがわかるでしょう?
その私がこう、地面に向かってうつむいてから、すっと目を閉じて、囁き、詠唱、念じろ!なんてやってみたら、突然地面から木の根が飛び出してきて、私の足に絡みついてきた。
まったくその時の驚きようときたら。
しかし、私にとっての魔法のインパクトはその瞬間がピークだったので、魔法で木の根が生えてくるくらいなら、死体のひとりやふたり、魔法で起こして歩かせるのもできないことではなかろうと、魔法に対してすっかり慣れっこになってしまった。
なんにせよ、邪悪な力がここまで及んできたのは確かなことのよう。
そして、今も世界に広がり続けている…。
ここキングスポートのちょうど外側で都合よく止まってくれるのを期待したいけれど、容赦なくこの街に邪悪な力がなだれ込み、街の平和と繁栄を蹂躙することになるでしょう。
私にはなんとなく分かるんです。夜風にのって漂ってくる、暗い影の発する気配がね。
それでも街の人々は束の間でもこの現実を忘れようと、酒場にやってきます。
幸い人間どんな状況にあっても、穀物酒をあおれば酔っぱらえるようにできてますから。
ここの賢明なる宿屋の主人Abbottはそういった人間の仕組みを誰よりも早く見抜いて、このthe Hearth of Britanniaを大きくすることに成功しました。
街の人々は、今は酒のおかわりを注ぎながら、"誰か"(おそらくはアバタール)がこの状況を解決して元通りにしてくれることを願うばかり。
そしておかわりを飲み干してしまうと、今度は"予言"などという困ったことを言い出した古代の予言者の悪口を肴にもう一杯。
でも、そんな夜を何度も過ごす間にも、確実に闇がこの街に忍び寄ってきている。
だから、あなたがどんなにひどく酔っ払っていても、このエール酒の樽を空けてその中に隠れてやり過ごそうなんてことは考えないで。
#4 The Body Count in Braemar - ブレーマーの惨劇
Vale島に闇の勢力が蔓延り始めてから多くの集落が被害を受けました。そしてその中でも、ブレーマーの村は最も大きな損害を被った場所のひとつといえるでしょう。
ブレーマーには、宿屋を営んでいたFlynn Gilsonという男がいました。
そこで彼の自家製のおいしい酒とおしゃべりを楽しんだことを、今も懐かしく想い出すことができます。
とある酔っ払いの話によれば、彼の自家製のお酒は大変評判がよく、Vale島全域に出荷するほどだったそうで、そして交易航路が復活した暁には大陸の方にも販売しようと計画していたとか。
実は私も、その例の酒が入ったタルをひとつもっているんです。
でもその栓をひねるたびに、なんだかその感触がずいぶん重く感じてしまいます。
流れでてくるそのお酒は、深く黒い色をしていて、それにココアのような色が少し混じったような、そう、まるで黒いラガービールのような感じでしたね。もっとも、こちらの人はラガービールなんて言葉は知らないんですけども。
口当たりのキメが細かく、そして線の太いどっしりとした味わいが特徴で、正直今までこんな味には出会ったことがなかったです。
これを一杯やっていると、束の間ではありますが、悩みごとから開放された気になれます。
商人達がブレーマーから脱出するときに、その酒ダルをたくさん持ち出していったと聞いています。
しかし、彼らが話してくれたブレーマーの様子のほうがよっぽど信じられませんでしたね。
まさか死体が起き出して生きている者を襲い始めるだなんてね。
前々からウワサめいたものは聞いていたんです。ハンターが行方不明になったりとか、島の南のほうで道にまよった旅人や盗賊が死んでいるのが見つかったりとか、そういう話をね。
さらに驚いたことに、その死体どもはちゃんと組織化されていて、連携をとって集落に襲いかかってくるとか。
とても信じられないことですが、今のありさまを見ればそれが本当の話でも驚きはしませんよね。
死体の群れは郊外の農地へと浸食し、そこで生活を営んでいる人々が眠っている間に、女性も子供もかまわず、襲いかかっていったそうです。
そこの村人のジョン…いや、トムだったかな。まあともかく、その彼に死体の群れの噂話が伝わった頃、その事件はおきたんです。
事件は彼の子どもの叫び声から始まりました。
彼は急いで子どものところへと走り、何がおこったのかをその目で確かめたのです。
その光景は、その…もちろん私が直接見たわけではないのですが、彼にとってとてつもなく恐ろしく凄惨な場面であったそうです。
平和な農家に突然悪夢が訪れたとしかいいようがないですね。
ネクロマンサーのNestorのところにいるアンデッドとは違って、このアンデッドの群れはとても組織化されているんです。
しかも、襲いかかった相手を殺すのではなく、生け捕りにしているという話も聞いています。私はてっきり自分達の仲間を増やそうとして、生きている人々を襲っているのかと思っていたのですが…。
このアンデッドどもを操っているのは、一体誰で、そして何の目的をもってやっているのでしょうね?
もっとも、最近はブレーマーの様子を知ることも難しくなってきました。
残っていた商人達はすべて逃げ出してしまったし、ハンタークランのKorenがブレーマーの救出に向かったものの、多くのハンターが命を失う結果になってしまった。
そしてこのすぐ後くらいに、他所からきたHalmarという男が現れて、ブレーマーに戒厳令を敷くと言い出したんです。
その時のブレーマーにはまだ、Albert Halversonという行商をしている老人が取り残されていたはずなんですが…。
戒厳令が敷かれてからは、ブレーマーにはアンデッドであれ人間であれ、誰も出入りをしていないはずです。
また、見張りの者によると、ブレーマーの周辺をうろついているのはアンデッドだけではないそうで、なにか機械仕掛けの赤い目をもった奇妙な生物も農地の近くの林を徘徊するようになったとか。
この機械のような生き物を操っているのもアンデッドたちを動かしている者と同一人物なのでしょうか?
そしてHalmarという男は一体何者なのでしょう?もともとは平和な狩猟集落で用心棒をやっていたそうなのですが、突然ブレーマーにやってきて自身をガーディアンと自称し、戒厳令まで敷くなんて…。
彼がやってきたタイミングといい、その後に起こったこといい、どうも展開がデキ過ぎてるとは思いませんか?
#5 On Wolves, Bears, and the Darkness... - 大いなる自然の警告
私は今まで色々な場所に住んだ経験があります。その中には危険な野生動物がうろつくような場所もありました。でもその中でもとりわけ印象深かった話をしましょうか。私が河でカヤックを漕いでいた時のことです。
カヤックの上からふと6フィート先の岸を見やると、こちらを狙っている鋭い眼光と目が合ったんです。
その時、大自然の中の自分はなんとちっぽけなものだと、今までで一番心細い思いをしたことをよく覚えています。
私と目が合ったそのワニの体長は、私の乗っていたカヤックよりも大きいように見えました。
でも実は私、冒険家にずっとあこがれていたんですよ。
望遠レンズ付きのカメラに革で装丁された冒険日誌とか、夢見る少女にとってそういったアイテムはとても魅力的に思えたんです。
でも、あの時の、河でワニと出会った時の衝撃にくらべれば、冒険少女のカメラや手帳へのあこがれなどなんと小さいものだったことでしょう。
自然の中で自然と出会う、これほどステキな時間の使い方を、今の私は他に知りません。
もちろんここへやってきてもその冒険家の心に変わりはありませんでした。
そしてもうカメラだって必要ありません。私、スケッチには結構自信があるんですよ。
ここへきてから初めてオウルズヘッドを離れて、近くの森を探検したときのことはよく覚えています。
その時はまだ闇の勢力の手がこの北方の島まで及んでいなかった頃でした。
オウルズヘッド近郊の森を散策すると、オオカミの群れやクマとよく出会ったものです。しかし、最近はどうもその動物たちの様子がおかしいんです。
以前Kendraが動物たちに異変が起こっていることや、その原因について調査していることを話してくれました。
彼女の警告に従い、私も壁に守られた街の中でじっとしているのが賢い選択だとは思います。
でも、Thomasが目を光らせている酒場の中でじっとしているくらいなら、たとえ危険であっても、自然の中に身をおいておくほうが私の性にはあっているようです。
最近どうも、視線というものに対して敏感になったようです。
でもこの力は自然の中を行くときにとても頼りになるんですよ。
今こうやって冒険譚を話せるのも、その力のおかげといってもいいかもしれません。
ある日、私は見晴らしのよさを求めて大きな岩の上に登ったことがありました。
その時、林の切れ目から大きな茶色いクマが姿を現わしたんです。
クマの歩き方って、こう、のっそりというか、普通はそんな感じに表現すると思うんですけど、その時はそうじゃなくて、明らかにこちらを付け狙って、静かに向かってくるような感じだったんです。その間一切視線を外すこともなくて、ずっとこちらを見ていましたね。
その視線から、私は敵意を存分に感じとりました。いえ、敵意だけなく、怒りの感情も入り交じったような、そんな目をしていました。
私は前に手をかざし、火の魔法を放ちました。
火はクマの近くに草花にあたり、その草花の焼けるにおいに驚いたのか、クマは逃げていきました。
魔法というものを使ったのは、その時が初めてです。
今思えば、ちゃんと思った通りに魔法が使えて本当によかったですね。その時もっていた短剣だけではどうにもならなかったかもしれません。私って、剣の扱いに関してはホントダメなんですよ。
そんなことがあってから、私は悪意や憎悪のこもった視線に対してより敏感になりました。
でも、以前は、たとえ一般的に危険とされている動物であっても、こちらに憎悪を向けてくるようなことはなかったんです。
オオカミやクマと出会っても、息を潜めてこちらの様子を静かに伺っているだけです。
そしてこちらが何も手出しをしないと分かると、静かに立ち去っていったものでした。
しかし、今の動物たちの様子は明らかに違います。
それは生きていくための狩りとも違うようです。
自然のものとは思えない、何か邪悪な心が動物たちの目に見て取れるんです。
あの時のクマの目つきを、私は今でも忘れることができません。
あなたもご存じでしょうが、この島にも何か邪悪な力が忍び込み、その力で人間の死体を操っているようです。
でもその力が同じように動物たちも狂わせているとしたら、と考えたらどうでしょう。
さらにその邪悪な力が、生きている人間をもそうさせない、という保証はどこにもありませんよね?
#6 Curiosity and Stone Circles - 新世界への憧憬
その時、妙な偏頭痛のような感覚に襲われたのをいまでも覚えている。それから、なんというか、オーラのような光が現れてきたのが見えた。不思議とそれに対して恐れを感じることはなかった。
そしてその光が一層強くなってきたと思ったら…今度はだんだんとそれが弱まっていった。
私は読んでいた本を閉じて目を瞑り、目の前で起こっている事態をなんとか理解しようとした。
ひょっとしてさっきの不思議な感覚は脳腫瘍か何かが原因で、目の前にみえているこの光景は、ただの幻覚ではないだろうか…?
一度はそう思ってみたものの、それにしては目の前の光景はあまりにも鮮明で…。
私は座っていたイスから立ち上がった。
今思えば、もし私がその時イスに座ったままだったなら、私は今も自宅で安穏とできていたに違いない。
しかし、私はその時、なにか"新しいもの"を心の底で求めていたのだろう。
今ではその時の欲求が正しいものだったとより強く確信を持てる。
何が私を導いたのかはわからない。しかし、私はこのニューブリタニアへとやってきたのだ。
オーラの放つその光はとても眩しかった。
どうにか手と瞼で光を遮りつつ、私はそのオーラへと近づいていった。
そして、その光の中心にふれた瞬間、めまいと落下していくような感覚に包まれた。
この世のものとは思えない、とても不思議な感覚だった。
その不思議な感覚が体をすっかり通り過ぎてしまうと、私は、自分の閉じた瞼に強い光が当たっていることに気づいた。それから、花の香りが、スイカズラの甘い匂いを感じた。
こんな幻覚を脳腫瘍が引き起こせたものだろうか?いや、もしかして私は脳腫瘍どころか、脳梗塞か何かに?
そう思った次の瞬間、暖かい風が私の体を包んだ。
季節は、冬のはずだった。
それまで私は膝の上から毛布をかけてソファーに座り、暖炉の前で本を読んでいたのだから。
そしてそれでも時折寒さに感じることがあったくらいなのに、今、体を包むこの暖かい風と、甘い花の匂いは一体どうしたことだろうか…。
私の知っているカレンダーでは、春の訪れはあと二、三ヶ月待たなければならないはずだった。
私はゆっくりと目を開いていった。
ぼんやりとした視界に、だんだんと色彩が広がっていく。
まず、まだらに散らばった緑の力強い色を目が捉えた。
そして、次に青と白の色のマーブル模様を。
最後に、紫と金色の力強い光が私を照らしているのをはっきりと感じることができた。
一体なにが起こったのか?
ここまできて、私はようやく頭を働かせることができるようになった。
ここはどこだろうか?
野外には違いない。
そう、花の広がる草原だ。
そして、私を取り囲んでいるのは…ストーンサークル?
やあ、やはり脳梗塞だったのかもしれないな。
この光景はまるで伝え聞いた死後の世界じゃないか。
しかし、脳梗塞による死亡説はそれからすぐに自分で撤回することになった。
脳みそがどうこうなったからといって、こんな不思議と期待でワクワクするような感覚になるはずがない。
そしてついに、私はこの世界でサバイバルしていく必要に迫られていることにまで頭が回るようになっていった。
この世界は一体?他にだれか人間はいるのだろうか?
とにかく、今はこの体験をしっかりと記憶しておかねばなるまい。
そう、私が今書き付けているこの文章は、あの時の体験を辿り辿り書き起こしているものなんだ。
最近、オウルズヘッド近郊にあるルナリフトが再び動き始めたようだ。
地元の人間は決してルナリフトに近寄ろうとはしない。
私が不用意にルナリフト近づいていくのを心配してくれる人さえいる
もしあれに吸い込まれてしまったら、まったく別の世界へと飛ばされてしまうよ、と。
とはいえ、実際彼らにもルナリフトが一体なんなのかはよく分かっていないらしかった。
その昔、ルナリフトはNovia大陸内を移動する交通の手段として使われていた、という話をしてくれる人もいた。
もういちどルナリフトを潜ってみたらどうなるのだろう?
今度は一体どこへ?
もしかしたら元の世界へ帰れるのかもしれない。
しかし、帰ることができるとして、本当に元の生活へ戻りたいと私は思っているだろうか?
心はもう決まっている。ここへやってきたのは何かの運命に違いない。
その運命を辿った先に何があるのか、私は確かめてみたいんだ。
さあ、いつまたルナリフトの力が弱まってしまうかわからない。
せっかく数奇な運命が私をここまで運んできてくれたんだ。
リフトの先にある運命の終端を見届けずに終わるなんて手はないだろう?
#7 Of bones and Throne - 骸達の上には
酒場をやってて一番面白いことは、まぁこれは世界のどこの酒場でもきっとそうだと思うんだが、酔っ払いどもの話を聞けることだと思う。酒が入ると普段は喋らないようなことをポロリと言ったりするからな。もちろんそういった話の大半はくだらないゴシップに過ぎないんだが、そんなヨタ話の中にちょっとした宝石のような情報が紛れ込んでいることがあるのさ。
ある日ロード・エンマーのところの連中がウチにやってきて、6パイントくらい飲んだくらいの頃だ。
すっかりこっちに筒抜けの大きさの声になっちまってるのに、連中はひそひそ話のつもりでこんなことをいっていた。
"アンデッドどもがこの酒場までやってくるのも時間の問題だ"
ってね。
ちょうど私は上のロフトにライムギ酒のボトルを取りに行ったところだった。このロフトは音響が効いててね、こういう興味深そうな話題をこっそり聞くにはうってつけの場所なんだ。
今から少し前に、ロード・エンマーがRavensmoorの遺跡に調査隊を派遣したんだ。Vale島の最南端のにあるあそこさ。まだあの周辺は調査が終わっていない場所が多いそうだ。
あちこちの話をつなぎ合わせてみるに、この調査の目的はRavensmoorが今回のアンデッドの件の元凶かどうかを確かめることらしい。ガードの連中も色々調査をした挙げ句、そこが原因じゃないかと目をつけたってわけだな。
ロード・エンマーもアンデッドの大体の頭数を調査して、オウルズヘッドにやってきた場合に防衛に必要な戦力を把握しておきたい、というわけだ。
Braemarの件が起こってからというもの、いつこのオウルズヘッドもアンデッドに襲われるか、街中の連中も内心気が気じゃなくなっているからな。
さらに話を盗み聞きしているうちに、もっと突っ込んだことがわかった。
Ravensmoorの調査隊で生き残ったのはWindslowだけで、しかも満身創痍のなか、命からがらなんとか帰ってきたという体だったらしい。しかもこのままじゃ長くはもちそうにないと、ジョッキを煽りながら連中はそういっていた。
しかもそのWinslowの傷の状態がどうにも見たことのないようなものなんだ。これは死者の眠りを妨げた報いじゃないかとか、そんなことをいっていたな。
湿った話の後は、空元気をだそうとするのが常で、連中はオレなら一人で何体までアンデッドを相手できるかとか、そんな話題へ移っていった。
その中でも年長のガードが、オレが調査隊を率いれば“Throne of Bone”なんてワケはない、なんて言い出す始末だ。
Throne of Boneはガード連中の間での遺跡の愛称らしい。
もう面白い話は聞けそうになかったんで、私はライ麦酒を持ってロフトの階段を降りることにした。
その時、Throne of Boneという言葉がもう一度頭の中に浮かんできた。ひょっとしたら、それはただの愛称なんかじゃなくて、端的に本質を表現したネーミングなんじゃないか?と。
時に千の論述よりも、ひとつの言葉が勝ることもある。
つまり、Throne of Boneには本当に誰かが座っていて、そいつがアンデッドの連中を率いている…?
とにかくアンデッドの親玉としてイスにどっかり座っていられるくらい、そいつはやっかいなヤツだってこったな。
#8 Stone Circles and Paths Taken - ゲートの向こう側へ
少し前からオウルズヘッドのルナリフトが再び動き出しているのに私は気付いていました。
以前の私だったなら、迷った挙げ句(あるいはまったく迷うことなしに)結局もう一度ゲートへと飛び込んだことでしょうけど、その頃に比べれば今は少しばかり考える能を身につけているようです。
ゲートからは私のような人間、つまり、アウトランダー達が次々とニューブリタニアに到着しています。アウトランダーとはゲートの向こうからやってきた人間、つまり我々のことで、ニューブリタニアの住民は我々をそう呼んでいます。多少酒場で知り合った仲の人達でさえもね。
酒場によく顔を出しているのは、同じ境遇のアウトランダー達と出会うため。
私には孤独はどうにも耐えがたいです。
それから私は知り合う中で信頼の置けそうな人を選び、彼らとその自らの境遇について話をするようになっていました。
ニューブリタニアにやってくるまでの経緯はそれぞれユニークなものだったけど、共通点もいくつかありました。それはどのアウトランダーもまばゆい光の中へ足を踏み入れたことがあり、そしてその後ここへたどり着いたということ。
その時の感覚はいままで一度も体験したことがなかったような、とても不思議な感覚だったそう。
しかも、ここへたどり着いた時には半ば意識もぼんやりとしているというのに、この場所になにか懐かしいような、親しみを伴った感覚を感じていた、と。
そして私のことについて話す番がきました。
テーブルを囲むいまの顔ぶれなら、話の真偽について差し挟まれるような心配もいらない。みんな同じような経験をもった人達ばかりです。
ここに来た時は幸いにも独りでした。
そして同じ頃、この街にいる商人の娘さんが行方不明になってから3つも季節が過ぎた頃、店を畳んでまで必死に探していた娘さんが帰ってきたそうです。といっても、その人は本当はその娘さんじゃないんです。
実はその娘さんの背格好が私に似ていて、私がゲートからやってきて街の外をウロウロしていた時に発見され、取り違えられたというわけ。
"娘の無事帰宅"は祝われ、私は熱いお風呂に入り、新しい服に着替えました。
それから本当のことを話そうと思っていたのだけど、なんだかここに腰を落ち着けたいような気にもなりました。だって、見ず知らずの土地にとても安全な場所を得ることができたんですから。
そしてテーブルの他の面々も、この街にいる理由は安全を確保できるから、ということを話していました。
でも今は、この安全な場所を離れて旅に出たいと思うようになってきました。
ここにいる、同じアウトランダー達と一緒にね。私って、嵐が来たら家でじっとしていられないタチなんです。
ここのバーテンダーのトーマスならだいじょうぶ。きっと私達のことは見なかったこと、聞かなかったことにしてくれるはずです。以前私がRed Sash盗賊団の連中と付き合いがある、なんて話しても、言いふらしたりせずに黙っていてくれたんですもの。
ここにいる人達は、私も含めて魔法を使うこともできる人もいます。きっとお互いに学べることも多いことでしょう。そして一緒に旅にでて、知らない場所を共に探険できるとしたら…。
このルナリフトがどこへ通じているのかなんてまったくわかりません。でももうこれ以上じっとはしていられないんです。私は行きます。心配してくれた新しい友達に、どうもありがとう。
#9 Who Watches the Watcher? - 機械仕掛けの瞳の奥に
私は勇気を振り絞って、ようやくルナリフトへと足を踏み入れることができました。着いた先はArdoris、将軍が治める大きな都市。
都会らしい雑然とした雰囲気と魅力的な建築様式、そして賑やかな市場。滞在するには面白そうなところに思えました。私はここで宿屋を新しく始めようと考えてます。ここに古くからある2つの宿屋に負けないようなのをね。
実のところ、私の蓄えを使えばSouth Wind亭のほうなら丸ごと買い取ることだってできます。
あそこの立地はなかなかのもので、時間が経つにつれますます魅力的に思えてきました。多少建物に手を入れれば、素晴らしい宿屋になると思います。でも、Blowhard von Strifeを店から追っ払うことも忘れちゃいけませんけどね。
そしてなにより立地条件が何よりも代え難い魅力に思えました。
しかしその計画も中止することにしました。
街の中に虫が蔓延りだし、大きな問題となってしまったんです。しかもその虫は、専門業者の手にかかっても駆逐することができないそうです。その虫は大きく、どこにでも飛び込んできます。しかもそれは本物の虫ではなくて、機械仕掛けの生き物で、人はそれをWatcherと呼ぶようになりました。
もうArdorisに来て1年近くになり、私はここいらでもちょっとした顔になりました。
しかし、どうにかこうにか理由をつけて、私はここを離れることにしました。
別に何か悪いことをやらかしたってワケじゃなくて、ニューブリタニアに初めてやってきたときのように、ちょっとしたきっかけから新しい生活により身を置きやすくするためなんです。
実は私、一軒の宿屋を相続したんです。ただ、遠くにいった娘に似ているからというだけで、間違えて、もしくはそれをわかっていて、オーナーは私を相続人に選んだのです。話では、私とその娘さんは本当に似ているようで、どうしてこんな偶然が起こったのやら本当に不思議なくらいだそうです。私はただの、オーナーの看取った人々の中の一人に過ぎませんが、きっと本当の娘さんよりもオーナーの為に尽くし、またオーナーは本当の娘さんよりも自慢の娘だと思ってくれていたのではないかと、自信を持って言える気がするんです。
そして私は引き継いだFire Lotus Tavernを立派な宿屋にすることができました。
きっとあの人も実の娘以上に私を誇りに思ってくれていることでしょう。私だってあの人を本当の父よりも、もっと誇りに思っています。だって、誰よりも私によくしてくれた人なんですから。
すっかり話が長くなってしまいましたが、これが私が新しい生活を求める理由です。私は私の人生の中で、色々な場所で色んな人に喜んでもらえるような、そんな仕事をしたいんです。
ここArdorisに来てからというもの、大きな目玉をした虫たちがそこら中を飛んでいます。私や、みんなを監視しているかのように。そして逐一情報をオラクルへと伝達しているようです。オラクルは一説にはすべての情報を把握している存在だとも言われています。Ardorisの住民の半分くらいはすっかりこれらの虫を怖がってしまって、虫達が睨みを利かしているときはヒソヒソ声でおしゃべりをする始末です。
SF的な話をすれば、こういった手合いが善い者であるはずがないですよね。とりわけ私のように、プライバシーをキッチリ守りたいような人間にとっては。
ですからもう、そろそろここを離れます。
故郷に帰りたい気持ちもあるけど、私は旅を続けるつもりです。第一こんな虫達がウロウロしているようなところはもうごめんなので。そうそう、オラクルやあの虫たちについて、何か分かったことがあったらぜひ教えてくださいね。
ここで宿屋を経営する話が流れてしまったので、まだまだいくらかのお金が手元にあります。虫たちのいない場所にたどり着くまでに、旅費の面はきっと心配いらないと思います。
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